ダリア
「ぼくはアカネ君と行くから、オキ君は一人で行きなよ」
始まった。
教室にいた全員が、そう思ったことだろう。言葉の主・ミコガミに、一斉に三十組の耳目が集中する。中学生らしからぬ大人びた、多分かなり整った部類に入る、澄まし顔。ピンと伸ばした背筋が、彼の矜持を物語る。
オキ君は唇を震わせて教室を出て行った。その背中を一瞥だにせず、ミコガミはオレに手を差し出す。
「アカネ君、一緒にお祭り行こうよ」
オレはこいつが嫌いだ。頭脳明晰、スポーツ万能、おまけにゲームも上手らしいミコガミは、自分を王子様か何かだとでも思っているのだ。つるむ相手を一時の気分で取っ替え引っ替え。他人のことを、ただのお供だとしか思っていない。
だから、差し出された手は、即座に振り払うつもりだった。
でも、見てしまった。神経質そうな細い指が、僅かに震えているのを。オレを捉えているようで、微妙に視線を合わせず俯き加減の、そのまぶたに陰がさすのを。
ああ、そうか。どうして誰もこいつを拒否しないのか今まで不思議だったのだが、それが今、ようやく分かった。
ミコガミは弱いのだ。思わず守ってやりたくなるほどに。
だから、差し出された手を、オレは握ってしまった。多分、今までミコガミに誘われた……いや、選ばれた幾人もが抱いたであろう葛藤と、……認めがたい、他への優越感と共に。
ミコガミが、オレの目に視線を合わせて笑う。オレはもうそれだけで嬉しくなってしまっている自分のことを、心底嫌いだと思った。
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