第40話歪み

「はぁ……なにやってるんですか?」

 ヘルシア先生とは毎日のように話しているような気がする。

 まぁ、俺のミスが原因だが……。

「間違えました」

「間違えて雷に打たれたんですね。なんです、ドMなんですか? 雷に打たれたと聞いてどれだけ慌てたと思ってるんですか!」

「よくわかります。本当にすいません!」

「お体は大事にしてくださいね」

 俺は思い出すように声を上げる。

「俺はドMではないですからね。どっちかというと、S側の人間ですから」

 ヘルシア先生はため息をつく。呆れというか、疲れというか……といった表情である。

「まぁ、とりあえず寝てください」

「ありがとうございます。では、ベッドをお借りしますね」

「ダメですよ?」

「え?」

「布団に静電気が流れて燃えたりしたら嫌ですからね。なので、地べたで寝てください」

「……それなら、もう教室に戻った方がいいのでは?」

「いや、流石にそれはいけないかなと……」

「だから地べたで寝ろと?」

「……」

 ヘルシアは黙り込む。正直、彼女の意図がわからない。

「じゃあ、俺はもう大丈夫なので」

 そう言って俺は立ち上がる。すると、ヘルシアが俺の袖を掴んできた。

「なんです?」

「……クンカクンカさせて」

 彼女は小声でそう言った。

「はい?」

 “クンカクンカ”ってなんだ。

 俺は引き気味で謎ワード“クンカクンカ”について聞いてみた。

「ピグロ先生からはとても良い匂いがするのです。それを少しで良いからクンカクンカさせてください」

「……嫌です。どうしたんですか? そんな汚らわしいこと言って」

「汚らわしいとは! 私はただ単に匂いを」

(駄目だこれ……)

 俺はある言葉を思い出す。

 “匂いフェチ”……たしか、フェティシズムの一種で、臭いに対するものとかなんとかだったはずだ。

「その香水の匂いがたまらないんです。もう一回だけ!」

 なんだよ……香水か。正しくは、柔軟剤であろうが。香水など付けてはおらぬからだ。

 そんなことを考えているとある疑問が俺の中に浮かぶ。

「もう一回?」

 いつ、匂われたっけ?と思い彼女に問い立てる。

「えっとですね……先生がクラディアちゃんを助けるために魔力切れになってここに運ばれた事があったじゃないですか?」

「あぁ、ありましたね」

「その時に寝ているあなたを布団の中からクンカクンカしていたらわけです」

 俺は急に体温が下がる感覚に襲われ、思ったことをそのまま口にしてしまった。

「気持ち悪!!」

「そんなことを言わないでくださいよ」

「人が俺の体をまさぐっていた……あぁ! 気持ち悪!」

 俺は身震いしながらヘルシアを引き剥がす。

「悪かったですってー」

「反省してないでしょうが!」

「反省はしていますよ。だから、こうやって許可をとっているんです」

「そういう問題じゃねぇ!」

 俺はそう怒鳴りながら変態ヘルシアにデコピンを行う。

「痛いー」

 ヘルシアは額を抑えながら泣き顔でこちらをみてくる。

「少しは反省してください!」

 バタンと閉まる戸の音は彼女と俺の間の溝を表すように大きくなった。

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