第37話決着!タガンvsピグロ

「『常闇ノ常連』」

 ノデウスが放った魔術『常闇ノ常連』はセイルの『空間想像フィールドシンキング』の上位互換のようなもので空間にブラックホールのような虚無の空間を生成するという魔術である。

 俺の周囲に空間の歪みが発生する。

「くっ!」

 俺は別のノートを取り出す。

 これは、【十一芒星イレポイドノート】。なんのことだかさっぱりだろう。それもそのはず。このノートはノートとか言いながらノートの機能をまっとうしていないからである。

 俺の自作ノート【十一芒星イレポイドノート】は十一芒星の魔法陣しか書いていないノートである。『腐行ストック』で魔術を発動させる時にこのノートの一ページをちぎって使うのだ。

「『帰輝リライツ』!」

 俺の放った光魔法は眩しいという言葉では表せないほど発光する魔術である。

 光さえも吸収する擬似ブラックホールの『常闇ノ常連』もあまりの発光の強さに消滅する。

「ほう? まさかあの技を……お前のような逸材が今まで何をしていたんだ?」

「引きこもっていた。職を探し始めたのは最近だ。『関所デガフダム』」

 俺はノデウスを岩の壁で包み込む。

「鬱陶しいな」

 俺はジリジリとだがクラディアとの距離を詰めている。

(相棒、引け!)

(ん?)

 俺は薙刀を地面に突き立てて体を後ろに押し出す。

「『骨尖ボーンピック』」

 ズドンと大きな音を立てて尖った骨の鶴橋つるはしが飛び出してきた。

(危ね!)

 俺はノデウスとの距離を一旦開ける。

(奴の攻撃はどちらかというと不意打ち型だ。地中からの攻撃はいつ来ても対処でき

るように集中しろよ!)

(了解)

 俺は腕全体に力を入れる。

「ふうぅぅー」

「何をしても同じなんだよ壁で囲もうが、氷の床を作ろうが間接的な攻撃ばかりだ」

 呆れるように手を肩まで開けて首を振るノデウスに俺は二シャリと笑う。

「まだ何かありそうだな」

「あぁ、とっておきがな!」

 俺はそう言いながらさっきのように薙刀を地面に突き立てて体を宙に浮かす。

「『魔力増幅陣フォルテジク』」

 俺はノデウスの真下に魔法陣を発動させる。

「何を考えているんだ?」

 俺はクラディアの方に体を向ける。

「この魔力増幅陣はオトリか」

 俺はこの一瞬を狙っていた。

「『半射半通パラドクス腹痛スタマツ』!」

 俺はノデウスの下に設置していた魔法陣を展開する。

「ちっ! 生徒をオトリに使ったのか!」

 『魔力増幅陣フォルテジク』……この魔術の効果は2つあり1つは文字通り魔法の威力を増大させること。

 そして、2つ目は一時的にスキルの発射を停止させ威力を上げるということ。

 この2つ目の効果を知らない人が多いが、正しい使い方をすれば地雷式でスキルを発動することができる。

「うっうぅ……」

 ノデウスは腹を抑えて蹲っている。

「まだだ……」

「無駄だぜ。お前の負けだ。その状態が1週間は続くだろう」

 俺はクラディアの鎖を解いてやる。

「すまなかったな。怖い思いをさせて」

 俺はノデウスに視線を戻す。

「……半人半龍よ。一つ……質問してもいいか?」

 ノデウスがそうかすれ声で質問してきた。

「あぁ。良いぜ」

「なぜ、人を……殺さないのだ」

「俺は……魔術を人殺しの道具にしたくないんだよ。魔術は人を笑顔にするために作られた学術だ。人殺しのために作られたんじゃない」

 俺はそう答えるとノデウスは二シャリと笑った。

「迎えが来たようだ……また会おう……ピグロ・リメルサよ」

 バリンと教会のステンドガラスが音を立てて割れる。

「グルルル……」

「ありがとう……フェンリル」

 半人半獣の警戒魔獣“フェンリル”。

「待て! お前たちの目的はなんだ?」

「そこは“逃げるな!”だろ?つくづく人に甘い男だ。……特別に答えてやろう。我々五芒教ペンタクルは脆弱な人間を浄化し、真の軍事大国を作り上げる。弱者はこの世にはいらない。夢物語ではないのだ! もうすぐ……すぐそこにあるのだ!」

 高笑いをしたノデウスをフェンリルは元来たステンドガラスから飛び出た。

「……甘いな」

 敵なのに……恋人のかたきなのに……殺せないなんて……。

 俺はクラディアをおぶって教会を後にした。

 これから、新たな敵がわんさかさと現れるのだろう……。俺は人を殺さないで済むのだろうか?それはわからない。

 ただ明確なのは今後さらなる強敵と対峙することとなるということだ。ノデウスは本気を出していなかった。魔神の目を宿している人間があそこまで弱い訳はないのだ。

 つまり、また俺の目の前に現れた時に……こうも易々と勝たせてはもらえないということ。

 俺は拳に力を入れてノデウスが去っていった方角を見ていた。

 そこでは、夕日の最後の頂点が眩い光を放ちながら、山に隠れて消えた。

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