第36話タガンvsピグロⅢ

ガツガツガツ……。


 薙刀がタガンの骨を砕くたびに鳴り響く鈍い音が、何故か時間の経過を遅くする。

(どうする……)


 この頃になると俺の中である一つの考えが浮かぶ。


(やってみるか)


 俺は思いっきり息を吸い込む。

 『共鳴ドラゴンコール

 共鳴ドラゴンコール……以前、インパクトセイズがブリザードワンプスを呼び起こすために使ったこの技。この技の効果を端的に言うと龍と感覚を共鳴させる技である。


(聞こえてるんだろ? さっさとクラディアを起こせ)

(そう急かしなさんな。相棒よ)

(急かさずにいられるか!)


「戦闘中に考え事かな?」


 俺たちが作戦を練っている間もノデウスの攻撃は続く。


「俺様が望むは氷結」

「俺が望むは百熱」


 俺はとりあえず、ワンプスの血を使い魔術を発動させる。 


「「氷結と百熱よ、半自然の渦に飲み込み奮い立て!『氷炎フラムシェイド』」」

 轟々と炎の竜巻が現れたかと思うとその周囲には氷のツブテが巡廻している。


「お前は面白い魔術を使うよな」

 そう言いながら、ノデウスは余裕の表情で俺たちの魔術を弾き飛ばす。

「消されたか……」

 俺は次なる作戦を練る。

(もう……隠し玉を使うしかないのか?)

 俺はそんなことを思いながら魔導書を取り出す。


「なぁ。ちょっといいか?」

「あん?」

「六芒教と五芒教の魔法陣ならどっちの方が優れていると思う?」

「そうだな……純粋な安定性だけでいえば六芒教ルシウルスの魔法陣だろう。だが、即発性を評価するなら五芒教ペンタクルだな」

「えっ?」

「なんだ? ……あぁ。我が五芒教ペンタクルの幹部だから困惑したのか」

「まぁ、そうだな」

「ふん。全てにおいて肯定的ではならないのだよ。物事にはメリットもデメリットも共存しているんだ」

「そうだな。じゃあ、お互いのデメリットの消しあいって可能だと思うか?」

(なんで……敵と普通に会話しているんだろう)

 俺はそんなことを思いながら隠し球のヒントをノデウスに授ける。

「そうだな……無理かな?」

 俺はその返答を聞いてニヤリと笑い魔導書の最後のページに手を乗せる。

 『十一芒星イレポイド!』


 十一芒星イレポイド……五芒星と六芒星の特徴を掛け合わせした魔法陣。

 書くのが面倒であるが、実戦では安定した魔術を速射可能であるというメリットがある。


「これは……凄いな。まさか、『腐行ストック』を本当にやる奴がいるとは……」

 この世の中には魔法陣を描いてから発動させる『瞬行クイック』とあらかじめ魔法陣を描いてすぐに魔法を発動できる『腐行ストック』の2種類の魔術の発動方法がある。 


 そして、現時点で『腐行ストック』を使う人間は絶滅危惧種と言われている。その理由については諸説あるが、いちいち書くのが面倒くさいということが最大の弱点であるからではなかろうか?


 例えば十一芒星イレポイドを書く手順は六芒星を紙の底辺から垂直中心になるように描き、その後に五芒星を角度45度傾けた状態で描く必要がある。


 だが、『瞬行クイック』にはそのような制限はない。故に戦闘での支障は少ないと考えられていた。だが、結果は否だった……。


 研究者達は勘違いを犯していたのだ。正式には『瞬行クイック』の長所は五芒星や六芒星の魔法陣で大きな力を発揮する。『瞬行クイック』には制限はないのではなく、制限に気づきづらいだけなのである。


 『瞬行クイック』の正式な制限は魔法陣を描き始めてから5秒以内に魔法を唱えなければならないという物だった。


 だから、いくら角度の制限などはないとしても不完全な魔術しか打てなかった。なんせ、『瞬行クイック』では、どう足掻いても完璧な十一芒星を描がけないからである。


 社会の風潮では『腐行ストック』は廃止の一途を辿っており、教科書にも載っていなかった。十一芒星の魔法陣はこの世から完璧なる抹殺を図られることとなった。


 そんな風潮の廃棄物を片手に俺はノデウスに向かって魔術を放った。

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