第35話タガンvsピグロⅡ
『連写式腹痛アフラスタマツ!』
(当たらねぇ!)
俺は複数の武器を使っているのだから、当然の如く集中力を消費する。
「そんなんじゃ駄目だ。まだ迷っているぞ?」
「クッ!」
わかっている。そんなことはとっくのとおに……。ここで、奴を殺さないと、クラディアを守れないこともわかっている。だが、俺にはその事実を肯定するだけの勇気がなかった。
「カリを返すんじゃなかったのか?」
「うるせぇ!」
これは試練なのか?
否だ……試練なら学生時代のいじめだけで十分だ。
じゃあ、ここは人生の終点なのか?
肯定も否定もできない……。俺が無力ならば、その仮説は肯定となる。
「せいや!」
俺は薙刀を振り回しながらあることを考える。
(あれを使うか? いや、使ってしまうと、俺は人間じゃなくなる……)
“龍化”……文字通り龍に化ける行為。俺ら半人半龍の固有スキルであるが、一度龍化してしまうと、皮膚が鱗になったり、角が生えたりする。そうするとあの教室で生きづらくなるだろう。
だが、ここで助けられなかったらどうにもならない。
そう自分に言い聞かせて俺は呼吸を止める。
“無呼吸”……ごく一般的な動作であるこの息を止めるという動作は、ドラゴンにとって身体能力の向上に繋がる。明確な理由は分かっていないが、この動作が龍化の絶対的な条件だ。
パキパキと鱗が肌の上に生成される。
「痛っで」
頭からは頭皮を押し破って角が生える。
「本性を表したな」
「本性か……否定はできないな。今なら、俺はお前を殺すことができそうだ」
薙刀には思いっきり引っ掻いたような爪痕が次々に浮かび上がる。
「完全な龍化とはいかないな……」
逆に、完全な龍化をしてしまうと俺は完全に人間ではなくなる。今は半人半龍というよりかはリザードマンに近いと言うべきか。
教会の外で降りしきる雨はいつもよりもゆっくりと落ちている。一つ一つの滴が可視できるほどに……。
俺は薙刀を再度構える。
「楽しみだな。まぁ、スピードは互角ってところか……」
俺は薙刀をタガンの首元目掛けて斬りつける。
カーンと金属を切ったような音が教会に響き渡る。
「なっ⁉︎」
「残念でした! これが魔神の4の目の力『物質変換』。この世の中の物質で最も硬い魔硝石。今の俺の首の主成分はその魔硝石だ」
俺の薙刀は刃こぼれをしていないようだ。とりあえずは安心することができるだろうか? 否だ……。この龍化した状態で均衡状態を保っているのだ。
絶望的なシチュエーションであることは変わりない。
「もう、最後の手を使うしかないのか?」
「まだ隠し球がありそうだな」
「あぁ、死を覚悟しないといけないけどな」
俺はまだ死ねない。
なぜなら、俺は彼女の手を握れていないから。生徒たちと沢山の思い出を築き上げたいから。
だから、まだ死ねない。
情を無くしては駄目だ。本当の意味で人間ではなくなる。人間は感情の生き物だからだ。ここで奴を殺しても、何も得られない。
そう思いながら俺は奴を殺さないことを決意した。
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