第34話タガンvsピグロⅠ

 情を消せ……あの頃のように。

 死は自然の循環だ……気に病むな。

 今からすることは、この世界で生き残るには必要な事だ。

 

 轟々と降りしきる雨の中、俺は六芒教ルシウルスの教会の前に立っていた。

 

(さてと、甘ったるい考えはここで終わりだ……ここからは本気でやる)

 

 俺はいつも持ち歩いているドローンを展開する。鈍い機械音は無機質で、俺を孤独にさせる。

 

(刹那だったとしても、俺はあいつの……光になれたかな?)

 

 そう言いながら、俺はゲートを開く。

 

 半人半龍……俺は読んで字の如く龍と人間のハーフである。

 経緯はよく知らないが、俺はこの体に大量の龍を宿すようになっていっていた。

 

 龍を宿して、はや10年は過ぎている事だろう。

 

 ゲートから薙刀のような物が飛び出してくる。

 

 名刀“神舞カグラ”……俺の親父(龍)の使っていた武器だ。

 湾曲した東国の剣先は滴を塗し雲の間から刺し込む光をキラキラと反射させる。

 

(この国の剣はどうしても重くて使いづらいんだよな……)

 

 そう思いながら薙刀を振り回す。

 

(よし、感覚は残っている。だが、俺は本当に……人を殺すことができるのだろうか? 俺は人のことを殺したことがない……。あの骸骨野郎が言っていたように、そんな甘い考えじゃあダメなのかも知らないな)

 

 そんなことを考えながら、俺はさびれたドアを押し開ける。

 

「待っていましたよ。ピグロ・リメルサ。おや? 今回は本気でかかってくるみたいですね。ククク。楽しみだな」

 

 そんなことを言いながらタガン・ボーンフィストは近づいてくる。

 

「『憑依ポゼッション』とやらは使わなくてもいいのですか?」

 

「あぁ、俺の問題は俺が解決する。後、お前には個人的にカリを返さないといけないからな」

 

「あの少女はあなたが殺したんでしょう?」

 

「そうだな……昏睡状態にしたのは俺だな」

 

「昏睡状態? ……あぁ。そういうことですか。禁忌を犯しましたね?」

 

「禁忌? 知らないな」

 

「とぼけても無駄ですよ。この国の法律で死への妨害は禁止されているはずです」

 

「まぁ、あそこで死んで欲しくなかったんでね」

 

「あなたの自己満足じゃないですか?」

 

「腹を切り裂いた奴が言うセリフじゃないだろう」

 

「確かに」

 

「笑い事じゃないぞ。表に感情はあまりでない俺だが、結構怒っているんだぜ?」

 

「ククク。所詮は落ちこぼれなのですよ。あなたはね」

 

 俺は地面から僅かな振動を感知する。

 

 『炎舞フラム

 

 地面から飛び出した骨は俺を包む檻のように取り囲む。

 俺の炎を纏った薙刀は骨の檻を破壊する。パラパラと残骸がこぼれ落ち、教会に骨が散乱した。

 

「ククク。どこまで、本気で戦えますかね? こちらには人質がいるのをお忘れですか?」

 

「知っているさ。だから、ここに来た」

 

 俺は次々に出てくる骨を破壊し続ける。

 

「ククク。面白い! 実に面白いですよ! せいぜい足掻いてくださいね」

 

腹痛スタマツ

 

 俺はドローンから腹痛スタマツを発動させる。

 

「そんな鈍い攻撃では私には当たりませんよ!」

 

「あぁ、それは牽制用だ」

 

 そう言いながら俺は薙刀を強く握りしめる。


「王手だ!『蓮斬クライジス』」

 

 俺はタガンとの距離を一瞬で詰めて奴の腹に薙刀の持ち手を打ち付ける。

 

「グハ! ……言ったでしょう? 人を殺すことを恐れては、あなたに勝利は訪れな

いと!」

 

 タガンの第3の目とでも呼べるような目が額の右側からこちらを睨む。

 

「同志たちよ……我と共に歩め! それ以外に未来はない」

 

「ん?」

 

「タガンがお世話になったそうじゃないか? 我はノデウス。魔神の目の一つを宿す者だ」

 

 魔神の目……はるか昔にこの国に魔術が生まれた頃にある男が現れた。12個の目を持つ不気味な男。彼は、自身のことを魔神と呼んだ。

 

「魔神の目を宿している奴は異常なほどの魔力を授かるらしいな……」

 

「そうだ。人格障害を発生させるがな」

 

「まぁ、それは俺も同じような者だからな」

 

 俺は薙刀をもう一度構えて次なる攻撃を待つ。

 

「我からしたら、六芒教ルシウルスの廃止などどうでもいいのだがな」

 

 そんなことを言いながらクラディアがライトアップで映し出される。

 

 十字架に繋がれた彼女は気を失っていた。

 

「俺の生徒に手出しはさせねぇーぞ」

 

「もう、手出しされてるんだ」

 

「助け出す!」

 

 そう決意を胸に俺はタガン(覚醒)との距離を再び詰めた。

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