第31話彼は学生時代を思い出すⅡ

「うぇ! なんだよこれ! 苦っ!」

 

 少年は抹茶と呼ばれし物を路上に吐き捨てる。

 

「その苦味がいいんじゃない。後、お行儀悪いよ」

 

「ごめん……」

 

 少年は頭をかく。

 

 少年は抹茶は飲めないようだ……。

 

「ふぅ……苦い」

 

 口に残るほのかな苦味が少年の顔を歪ませる。

 

(ねぇ! ねぇってば!)

 

 少年を呼ぶ声が聞こえる。


「ねぇ!」

 

 少女は少年の視界にいきなり現れる。

 

「っ!」

 

 少年はきゅうりを見た猫のように飛び上がった。

 

「何!」

 

「デートしよ?」

 

「嫌だ」

 

「即答!」

 

 少年は人のことを好きと思ったことがない……。正式には、周りの人間がクズすぎて好きとも思えない奴ばかりなだけなのだが……。

 そんな中で少年が唯一心を許している少女がこのマテリダである。

 

「どこに行くんだ? 一応聞いておく」

 

 その返答を聞いた時の少女の顔はとても明るいものだった。

 

「遊園地にでも行かない?」

 

「嫌だ!!」

 

「前よりも威勢よく断られた!」

 

「何を考えているんだ! なぜ、貴重な金を払って怖い思いをしなければならないんだ!」

 

 少年は、絶叫アトラクションが苦手だ。

 

「ちぇ! 可愛い顔を見たかったんだけどな……」

 

 ため息をついて落ち込む少女に少年はドスの効いた声を放つ。

 

「あんまり馬鹿なことばかり言っていると、遊園地にすら行かないからな。後、可愛い? ふざけるんじゃねぇーよ。俺は細目で、片方の広角しか上がらないキモイ奴だろうが」

 

「そう? 可愛いけどな」

 

「勝手な偏見だな」

 

 少年はため息をついて天を仰ぐ。

 

 鈍色の曇り雲は雨を降らせる準備をしていた。

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