第30話彼は学生時代を思い出すⅠ

少年は貴族が嫌いだ。周囲の人間を踏み台にして、自身の地位を確立する貴族が嫌いだ……。

 少年は優しい女の子が嫌いだ。全員に笑いかける、守備範囲が極度に狭い女の子が特に嫌いだ……。

 少年は一人が好きだ。自身のペースで生活できるからだ。

 少年はお涙頂戴が嫌いだ。そんな展開は誰も求めていない。

 

 そんなことを思いながら、少年は嫌いなはずの女の子とお茶をする……。

 

「ピグロ君はさ……好きってなんだと思う?」

 

 女の子は、少年に問いかける。

 

「人のことを好きとか嫌いとかは俺にはわからない、って言うのが回答かな?」

 

 女の子はフッと笑って「なにそれ」と吐き捨てるように言った。

 少年は、そんな彼女の冷たい反応を逆手に肝心の話を展開することにした。

 

「ところで、マテリドちゃんはテストは?」

 

 この子はマテリド・ブリード

 貴族の子だが、とてつもなく頭が悪い。親の金で学園に入ったことが丸わかりの人物だ。

 

「うっ!」

 

「どうだったの?」

 

「必須教科5つ……合計で三九八点……」

 

 少年は目を見開く。

 

「聞こえなかったんだけど? 何点って?」

 

「三九八」

 

 少年はマテリドの肩に手を置く。


「よく頑張った!」

 

 必須教科5つで二六八点だったマテリドの結果を聞いた少年からは笑みが溢れる。

 

「好きな物をなんでも一つ買ってやるよ。何がいい?」

 

 マテリドは顔を赤くしながらボソッとこう答えた。

 

「抹茶……」

 

「抹茶?」

 

 たしか、極東と呼ばれている地域の特産品だったはずだ……。

 

「どこに売っているんだ?」

 

「コンビニに売ってる」

 

 コンビニ……正式名称はコンビニエンスストア。少々値段は高いが、なんでも揃う小さな店だ。

 

「わかった。じゃあ行くか?」

 

 少年はポケットに手を突っ込んで歩き出す。


 少年は……少年は女の子が嫌いだ。

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