第29話彼は骸骨男を追い詰める

 俺は盛大に音を立てながら屋上にたどり着く。

「ウップ!」

 

 クラディアは激しい吐き気をなんとか抑えながら.俺からずり落ちる。

 

「ようこそおいでいただきました。私、タガン・ボーンフィストと申します。スキルは『ボーポール』…骨のを操ることができます。先程のような、まきびしになったり、このように骨の鞭を作ることもできます。ククク」

 

 見せ付けるように、鞭を取り出したタガンは、不気味に笑う。

 

「ごっつい流暢に話しますな? ええんか? そんな余裕かましといて?」

 

 俺(オウスティー)はなまりまくった言葉で、タガンに話しかける。

 

「それって、どこの言葉です?」

 

「そんなもんは関係ない。戦闘に集中せなあかんのちゃうか?」

 

「確かにそうだね。ククク」

 

 俺はゲーツを使って、チェーンソーを取り出す。

 

「切り刻むのは趣味じゃねぇーが、仕方ない。生徒を危険な目に合わせるわけにはいかないんでな」

 

 そう言いながら、俺はチェーンソーのエンジンをかける。

 

「ククク。楽しみだねぇー。痛いのかな?」

 

 俺は足に力を入れて一〇メートルの距離を一瞬で詰める。

 

「まずい!」

 

 タガンは圧倒的なスピードに反応したのか、鞭でダメージを最小限に抑えようとしている。

 

 『伐採フェレン

 

 ヴィーーンと鈍い音を立てながら、チェーンソーで斬りかかり、優先的に骨の鞭を破壊した。

 

「良いセンスです! 素晴らしい! 貴方ほどの人材がどうして、学校で教師なんかしてるんですか?」

 

 タガンは俺の一番質問されたくない事に踏み込んでくる。

 

「はぁ……それを聞かれると耳が痛いよ」

 

 そんな事を言いながらも、次々とタガンが生成する骨の鞭を破壊する。

 

「揺動作戦もあまり効果はないようですね」

 

「一応、質問には答えてやるよ。俺は、この学園の卒業生だ。一応な……。まぁ、途中で病んで2年ほど休んでいたんだがな」

 

 俺は息を整える。これより先はムシャクシャする過去の話だからだ。

 

「この圧倒的な階級社会に俺は敗北した。周りの人間が好成績を抑えている中で、俺だけが、平凡だった。戦闘の授業でも、理不尽な理由で、勝っても、その試合内容を帳消しされたりもした。貴族って言う奴はそんな奴なんだ!」

 

「ククク。貴様も敗北者だったか。いわゆる『落ちこぼれ』だったと言うことですね?」

 

 俺は清々しい顔でタガンに笑いかける。

 

「落ちこぼれだ? そうだな……あながち、間違いではない」

 

 俺はこんな雑談をしている暇がない事を思い出す。さすがに、クラディアの目の前で血飛沫ちしぶきをあげるのはいけないと思いながら、俺は奴の鞭の破壊に全神経を集中させる。

 

「さて、質問にも答えた事だし、俺からも質問しようか?」

 

 今度は、俺の知りたい事を教えてもらおう。

 

「なぜ、お前らは、この学園を襲撃してきたんだ?」

 

「あぁ、目的ですか。あんまり話すなと言われているのですが……」

 

 そう言いながら、タガンは頭をかく。

 

「簡単に言うなら、その嬢ちゃん。つまり、クラディア・スノィーの膨大な魔力を使って、ある計画を進めているんです。内容は……秘密ですね」

 

 奴の鞭の破壊に専念していてもこの戦いに勝てるわけじゃない。もっと言うなら、負ける可能性の方がよっぽど高い。一撃で、奴を気絶させなければ!

 

(あ……あいつがいた)

 

 俺はネックレスを、さりげなく交換する

 。

(『憑依ポゼッション』)

 

「しゅ!」

 

 俺はタガンの腹に、拳を打ち込む。彼は、声も上げないでドサリと倒れた。

 

 この世界において、誰しもが持っている武器。それは、拳。打撃武器にも、斬撃武器にもなる最強の武器。この武器の真の力を引き出すには、俊敏性、柔軟性、瞬発性が必要だ。

 

「この世で、最も強き拳を極めしもの。それが、この俺! 聖騎士龍族“鉄拳神龍ガントレック”だ!」

 

 こいつは聖騎士龍最強と言われている。様々な理由があるが、その瞬発性は、“トライデントの動体視力をも凌駕する”という点が彼の評価をあげている一番の点だろう。

 

「ふぅ……。ひと段落ついたな」

 

 そう、油断した時、俺の体を何かが、通過する感覚に襲われる。

 

「っ!」

 

 骨の槍は俺の胃袋を貫通した。

 

「ゴホ! ゴホ!」

 

 俺は血を吐いて倒れる。

 

「先生っ……」

「悪いね。暴れられたら困るんだよ」

 

 タガンがクラディアの首元

 クラディアが意識を失った。まずい……。俺は必死に起き上がろうとするが、視界はどんどん狭まるばかりだ。

 

「残念だったね。“半龍半人”ピグロ・リメルサ。私は、五芒教ペンタゴンの幹部的な存在でね。君のような、相手を殺さない戦い方を好む人間ではないんだ。目的のためには、人の命をも奪うのが常識さ」

 

(ちっ!)

 

 タガンはクラディアを担いで、俺から離れ去っていく。

 

(間に合え!間に合え!)

 

 俺は特に大事なネックレスをポケットから取り出す。

 

 『憑依ポゼッション

 

(酷い傷だね。癒してあげるから少し待って)

 そんな声が聞こえる。

 

 だが、意識は薄れていく。間に合わなかったか? まただ。あいつと同じ運命を辿る事になる。そんなことはさせない!絶対に……。

 

 俺は薄れゆく命を必死に保ちながら回復を待った。

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