第18話彼は生徒と龍のマンツーマン指導を横目で見るⅥ

「えっほ、えっほ」


俺は校庭を男子生徒のように走る女子生徒を見かけた。


(速くね⁉︎)


1年8組19席サラ・ミデル……。

スキル『クレイダル』……思い入れのある物に魂を宿らせることのできる。


「あー、せんせーだー」


(緩い、軽い、幼い)


俺がこいつと初めて話してみて思ったことはこの3つだ。


「どうだ?」


「何が?」


「調子はどうだ?って聞いたんだが?」


「聞いてないじゃん」


俺はガクっと体を前に倒してしまう。


「いや、そうなんだけどさ!わかるだろう?」


「うーん……」


こいつが考えている時はポクポクという不思議な音が流れている気がする。


「わかんない」


いきなり、ポクポクという音はチーンという音に変わった。


「そうか」


俺は彼女に何を聴こうとしていたのか分からなくなっていた。


「せんせー、どうしたんですか?」


サラが俺の顔を覗き込む。


「いや、なんか……何を聞こうと思っていたんだっけ?と思ってな」


俺はため息をつく。


「そうだ!思い出した!これを聞こうと思っていたんだ!ちゃんと練習しているか?」


「え?走ってんじゃん」


「スキルの強化は?」


「やってない」


「フン!」


俺は彼女にチョップをかます。なんか、してもいいんじゃないか?と思ったからだ。


「いったー。何するのさ?」


「やれ!」


「はい?」


「やれって言ってるんだ!大体なんだ?お前たちはスキルの練習なのに、タイマン貼ってきたり、紅茶の席に同席したり!もう、うんざりなんだよ!真面目にやっていたのって、セイル、クラディア、グランツの3人だけだぞ!」


俺はこいつらに違和感を覚えていたて……。その違和感は確実に俺にストレスを溜めていた。


「なんでー、八つ当たりじゃーん」


「八つ当たり上等!それで、お前たちが強くなるなら何回だって、何千回だって“八つ当たり”してやる」


サラは俺をゴミのように見てきた。


「なんだよ?」


「せんせー、一瞬だけカッコいいこと言ってそうだけど、それじゃあただの……だよそれ」


おそらく彼女は《クズ》と俺に言っていいのか迷ったのだろう。だが、彼女の言葉はバッチリと俺に刺さる。


「なっ!」


俺はストレスのせいで変な事を言う時がある。それが出たか。


俺は彼女からネックレスを取り返す。


「ん?いつ取ったの?」


「さぁーね」


こいつの特別講師は“幽霊神龍ゴーストテラー”だ。

聖騎士龍の中では唯一無二の実態を持たない龍である。

こいつのスキルとの適性率はとても高いと思ったのだが。


(おい、なんで、サラを放置しているんだ?)


(だって、僕が話しかけたら、絶対に驚くし)


このゴーストテラーは紛れもなく“陰キャ”である。


(お前なー)


俺はサラに確認することにした。


「サラ……幽霊って信じるか?」


度直球に聞きすぎただろうか?

だが、この心配は無用だったようだ。


「幽霊?信じるよ。友達になりたいぐらい!」


(ほら、大丈夫じゃないか?)


(でも)


(さっさとやれ!なんで、こう、上手くいかないかな?)


(ごめん)


(よし、分かったのならさっさとやる!)


俺はサラにネックレスを返す。


「幽霊と話がしたいんだろ?いいぜ、お前のネックレスの中身はほぼ幽霊だ」


「マジで!せんせーありがとー」


(緩い、軽い、幼い)


俺のサラに対するイメージは変わることはないようだった。


するとどたどたとグランツが走ってきた。


「どうした?」


「クラディアが!」


俺は寒気に襲われた。

いや、あいつが冷気を使うことができるとかそう言うことではない。本当の寒気だ。


「クラディアがどうしたんだ!」


「スキルの反動で凍りつきました!俺のスキルで応急処置はしていますが、ブリザードワンプスいわく、後、20分も持たないかと!」


「なっ!」


俺はそう聞いた瞬間に走り出していた。


(死なせない!あいつのような結末には絶対にさせない!)


その決意を胸に俺はクラディアの元へと走り出す。

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