第14話彼は生徒と龍のマンツーマン指導を横目に見るⅡ
「ヤッベわー」
最近の若者のような口調、汚れた白衣。
「グランツ!お前どうしたんだ?」
ベイム・グランツ1年8組18席……。
スキル『ドロワー』……絵を具現化させる能力を持つ…。
「あー、先公じゃないっすか。いやー、ミスりました」
「すまん。ワシの教え方が悪かったんじゃ」
彼に渡したネックレスがピカピカと光る。
このお爺さんのような話し方の聖騎士龍は“絵画神龍デモリヤス・アーツリー”だ。
「まぁ、怪我がなければ大丈夫だ」
俺はグランツの体に傷がないか確認する。
「ないな!ふぅ、ビビらせやがって」
俺は胸を撫で下ろす。
「なんだよ?心配なんていらないさ。俺は失敗ばかりしているからな」
そう言いながら彼は俯く。
「グランツ……」
なんと答えたらいいかわからなかった。
こいつも俺と同じ“平民“だ。うちのクラスでの数少ない“平民”だ。
こんなところで自分への自信を無くしては欲しくない。
「お前の絵は凄いよ。俺には到底描けない物だ」
俺はグランツの肩に手を置く。
「お世辞か?俺には絵の才能が無いんだ!ある貴族が俺に言ったんだ!お前の絵は面白く無いって!才能が無いって!」
俺は息を思いっきり吸い込む。
「お世辞じゃ無い!貴族の言葉がなんだ!裕福な暮らしをしていた奴らにお前の絵の良さの何が分かると言うんだ⁉︎」
俺は膝を地面につけてグランツを見上げる。
「だが……」
グランツは俯く。
「お前は何のために絵を描いているんだ?」
「何のため?お袋の笑顔を見たいからだ。俺のことを大事に育てくれたお袋の負担を少しでも軽減してやりたい!」
俺はウンウンと頷く。
「じゃあ、お袋のために描くんだ、絵を。評価を得るためじゃ無い。お前はその目的のためだけに絵を描けばいいんだ。誰かのために描いた絵には魅力がある。人の感情が絵に現れるからな。お前の絵はいつも暖かかった。どんなに暗い絵でも、その中に希望の光が差し込んでいるようだった」
俺はある思い出話をグランツにする。
「ある日、俺は痩せ細った少年が描いていた絵を購入しました。タイトルは『頼む!買ってくれ!』でした。何というタイトルだ!と思った俺は少年に“なぜ、買って欲しいのか?”と問いました。すると、少年はこう答えました」
俺は一息ついてから次の言葉を言う。
「“お金がないから、お袋の病気を治せないから”と言いました。」
グランツは顔をハッとあげる。
「それって」
「あぁ、2年前の今頃に俺がお前から買った絵の話だ」
俺はグランツの頭に手を乗せる。
「評価を得るために絵を描くのではなく、誰かのために絵を描く。それはとても素晴らしいことだ。お前にはそれができる。誰かがお前のことを必ず応援してくれている。誰もいなかったら俺が応援してやる!だから、お前は自信を持って絵を描き続けろ!」
俺はそう言って立ち上がる。
「あぁ、わかった!やってやろうじゃないか!」
グランツの目には涙が溜まっていた。
「よし、吹っ切れたようだな?じゃあ、授業に励みたまえ!アーツリー、グランツを任したぞ!」
「任せておけい!」
俺は頷いて部屋を後にした。
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