第3話彼はまだ、生徒の信頼を完璧に得ていない
セイルを医務室に預けて教室に戻ると信じがたい光景が俺の目の前にあった。
「おい。なんで、教科書を見てる?」
生徒たちが教科書を熱心に眺めているのだ。
「あのなー、セイルとの戦いを見てわかっただろう?」
俺は右手に教科書を、左手に魔導書を持って生徒たちの前に立つ。
「教科書での授業を受けたい人は挙手」
20人の生徒の内、挙手したのはたったの4人。
「俺のオリジナル授業を受けたい人は挙手」
残りの生徒が挙手をした。
「じゃあ、なんで教科書を見てるんだ?」
「……」
生徒たちは黙り込む。
おそらく、彼らにもプライドという物があるのだろう。昔の俺のように。
「まぁ、いいさ。セイルには解毒剤を打ち込んでおいたからそろそろ戻ってくるだろう。話はそれからだ」
数十秒後、セイルが教室に戻ってきた。
「おかえりー」
「死ぬかと思った。平民のくせに、貴族の私が」
俺はため息をつく。
「お前、その平民をバカにする癖やめろよ。もう一発打ってやろうか?」
「それは勘弁してくれ」
俺は頷いて生徒たちにこう言う。
「俺は、軍での戦闘経験はないが、他人よりも魔術応用ができるし、下手な軍人よりも基礎戦闘知識も豊富だ」
俺は教卓をドンと叩いて生徒たちに向けてこう言う。
「正直、この教科書は難しく書きすぎだ…こんなの王宮魔導艦隊の中でもエリート中のエリートしか完璧に理解できないぞ」
俺は教科書を宙に投げる。
「蠢け縄蛇『
俺は教科書に封印の呪いをかけた。
「よし、これで俺は教科書を使えなくなった。つまり、俺はこの自前の魔導書を使って授業をすることしかできなくなったわけだが」
「ふざけるな!」
「由緒正しい教科書をなんだと思っているんだ!」
教科書人間どもはギャアギャア言っているが、正直、どうでもいい。
「今、文句を言った奴はもう明日から来なくていい」
俺は強行手段を取った。
「なっ!」
「ふざけるな!」
俺は首を横に振る。
「強くなる手段を自ら捨て行く者はこのクラスにはいらない。お前らは入学試験の上位20人だってな?だが、俺からしたらお前らはまだまだ
俺は黒板にあるメニューを書く。
「俺がこの一年で教えることはこれだけだ。
一、魔術とは。
二、魔術と呪文と手形の関係性。
三、魔術の連射。
四、高火力の魔術。
五、実践的な魔術応用。
これだけだ。片手で数えられる。だが、お前らの教科書はどうだ?全ページ合わせて2618ページ。一章の平均ページ数はなんと120ページ。つまり、単純計算で21.5章も授業があるんだ!ごめんだね!そんな授業は面白くもないし、実践的な技術を全く学べない」
俺は全員の教科書に封印をかける。
「若者諸君!古きしきたりに囚われているだけでは新しいユーモアのある物は生まれない!」
俺は少しトーンを落としてこう脅す。
「お前たち……このままだと、死ぬぞ?」
これは脅しではない。
それを生徒達にわかってほしい物だ。
死というのはいつも自分と隣り合わせである。大切な人との別れも唐突である。
「そんなわけ」
「ご冗談を」
俺の脅しは確実に効いているようだ。
「よし、信じていないお前たちに実体験を話してやる」
こうして俺は思い出したくない過去を語ることとなった。
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