第2話彼の論理は生徒にうけない
あの小太りの男はゲニー学園の校長だったらしい。
なぜ、魔術を自身で放って自衛をしなかったのかと問うと彼はこう言った。
「魔術を発動させると彼らの身の安全が保障されない」と……。
(どんだけ威力高いんだよ!)
俺はそう思った。
そのツッコミも、今では懐かしく思える。
なぜなら、あの出来事からもう2ヶ月も経っているのだから。
そして、今日が、はじめての授業になる。
鳥たちのさえずりはただ、春を表しているだけなのかも知れない。過度な妄想を膨らませるのなら、鳥たちは俺の初仕事を祝福してくれているのかも知れない。そんなのはただの妄想であり、実際は俺に鳥の言葉を理解する能力もない。
俺は教室に足を踏み入れた。
「よし、おはようさん」
教室を見渡すとやはり驚く物があった。
彼らの机の上には2600ページを超える辞書のような”教科書“があるのだ。
「まずは自己紹介からいくか?」
俺はチョークで黒板に自分の名前を書く。
「どうも、ピグロと言います。皆さんの今後に役立つ様々な魔術知識を教えていけたらなと思っています。では、早速授業に行こうか?」
俺は鞄から教科書を必死の思いで抜き出す。
「えーこれが魔術基礎の教科書です。皆さんはこの教科書を使いません!」
思い切ったことを言った。
「ふざけるな!」
「教科書がなければ、何になるんだ!」
「帰れ!」
俺は生徒からボロッカスに言われる。
「落ち着け、落ち着け」
俺は小さい子を諭すように手を上下させる。
「普通に考えてこの教科書を一年で終わらせることは不可能だ!」
俺はため息混じりにそう言う。
「それをなんとかするのがお前の仕事だろ!」
(なんと偉そうなガキ共だ。あぁ、こいつらはほとんどが貴族だったな)
そう、俺は貴族が嫌いだ。権力を振りかざしこの世界の本質的平等とやらを崩す存在。それが貴族だ。
「はぁ?ふざけるなよ!」
俺はひょろりとしたいかにもエリートのような生徒を指差す。
彼の名前はセイル。貴族の息子で平民を見下す癖がある。
「なんだよ?」
「お前が1番成績がよかったんだってな?」
「当たり前だ。平民とは格が違うのだよ」
(ウゼー)
「お前が代表者になって俺と決闘しろ」
「嫌だね。決闘は貴族の遊戯なんだ。それを平民なんかと」
セイルは首を振る。
俺はこう言う奴のあしらい方を知っている。
「負けるのが怖いのか?」
そう、これだ。
「なっ⁉︎」
セイルは辺りを見渡す。
「なんだよ、普段から俺はエリートだ。みたいな事を言ってる割にはビビってるのか?」
「ダッセー」
クラスの平民たちも彼のことはあまり好印象を抱いていなさそうだ。
「黙れ!平民がこの私にやじを飛ばすのか?」
「はいはい、落ち着けー」
俺は手拍子で生徒の注目をこちらに向けさせる。
「で?どうする?」
俺はセイルに問う。
「うっ……」
「負けたら俺の授業を受けてもらうよ?」
「うっ……」
俺はセイルにジリジリと近づく。
「なんだよ!平民ごときが!」
(確か……こいつは銃を応用した魔術が得意だったっけ?)
「銃、使っていいぞ?」
そう言うとセイルの顔はパッと明るくなる。
(やっぱりか)
俺はこの会話で少しだけ彼に落胆した。
なぜなら、成績優秀と言われていても、所詮は銃を使っているからだ。
俺は彼に向かって手袋を投げる。
(偏見だけで見てはいけないな。とりあえず、確認してみるか?)
「正式な決闘はこうやるんだってな?」
「あぁ、この手袋を拾えば私とお前は決闘しなければならない」
「どうする?」
俺はニコニコと笑いながら彼を見つめ続ける。
「もちろん受けさしてもらおう」
こうして俺とセイルの授業方針をかけた決闘が幕を開けた。
鳥のさえずりはまだ聞こえる。
このさえずりは祝福のさえずりだろうか?
まぁ、そんなことはどうでもいい。俺の今回の目的はセイルを完封なきまでに叩きのめして、あの太い教科書からの脱却を促すことだ。
「本当に銃を使っていいんだな?」
「あぁ、構わないぜ。ただし、俺もこれは使わしてもらうがな?」
俺はそう言ってポケットから魔導書を出した。
「なんだ?メモ帳か?」
「魔導書だよ。お前らの教科書よりもずっと優秀な魔導書だ」
そのページなんと5ページ。1年の授業内容で俺が教えることはこの5ページのみだ。
「魔導書だ?」
セイルは俺のことをバカにする。
「まぁ、人には色々個性があるわけだ」
俺はそう言って魔導書を開く。
「これはもう俺の授業の一環だ!傍観者諸君も俺の戦い方から吸収できる物はドンドンと吸収していけよ」
そこまで言って俺は戦闘態勢になる。
誰にも教えてもらえなかった戦闘の構え。質問しても、「お前には期待していない」と適当な教えを受けていた戦闘体勢。
様々な文献を読み漁り、我流を形成した戦闘体勢。
「はっ!構え方が3流だな!」
この我流の構えをセイルは馬鹿にした。否定した。悲しさが俺の心を埋め尽くす。
「はぁ、減らず口を叩いている暇があるのか?」
俺はなんとか悲しみを心に押さえ込み会話を続ける。
「あぁ、大丈夫だ!俺はガンスレンダー家の長男だからな!」
そこまで言って彼は腰から銃を2丁抜く。
(奴の持っている銃はリボルバーと呼ばれている西の国の銃だったはずだ。仕組みはよく知らんが)
「始め!」
クラスの生徒の号令により俺たちの決闘が始まった。
『
先に仕掛けたのはセイルの方からだった。
『
俺は威嚇射撃程度にスタマツを放つ。
「はっ!そんな遅い攻撃で何になる!
『BBショット!』」
確か、セイルのスキルは弾丸操作だったっ
け?
対戦相手の知識を頭にあらかじめ入れておくのは決闘の基本である。
「あぶね!」
明らかに軌道がずれていた弾丸が急に跳ね返ってきて俺の背中を襲う。
「バウンドバレットか?」
俺は魔導書を開いて呪文を唱える。
「死に直結し冷気の神よ、数多凍らせ踊り狂え!『
呪文を唱えてからの発動位置によって魔術の特性は変化する。
俺は地面に『
「なっ!中級魔術だと!平民のお前がなぜ、貴族直伝の氷属性を使える!」
そう言いながらセイルは宙へ舞い上がり俺の攻撃を回避する。
だが、下は氷。セイルは着地と同時にバランスを崩して尻餅をついた。
「ダッセー」
「どうした?セイル様?」
と平民集団はセイルのことをバカにする。
「チッ!なんで、お前なんかが、5属性以外の魔属性を使えるんだ?」
そう、この世の中には5種の魔属性と言われている物がある。
「火・水・風・光・闇の5種類の中に存在しない属性それが氷・雷・爆発・無この4種類だ。まぁ、まだあるんだがな」
俺は魔導書を開いて次なる攻撃の準備をする。
「お前たちに質問だ。答えられる奴は挙手して回答せよ!」
そう言いながらセイルの弾丸を防護魔術で防ぐ。
「クッ!」
セイルは屈辱を浴びせられ怒り狂っている頃だろう。
「魔術はどのようにして連射する?」
俺はチラリと傍観者たちの方に目を向ける。
「言っただろう?これは授業だ…あの分厚い教科書にも書いてるんじゃないのか?熟読したんだろう?教科書人間共が!」
こう、煽りの言葉を入れることで生徒たちのプライドを刺激し、授業への参加意識を高めることにした。
「ハイ!」
すると、一人の少女が手を上げた。
確か、クラディアという名だったような…。
「どうぞ!」
こう授業をしながらもセイルは俺に攻撃を続ける。
「なんで当たらない!」
「セイル君、やっても無駄なことは授業妨害だ!まぁ、いいさ。済まないね、クラディアさん。さぁ、回答を」
「魔術には連射応用が効きません。連射系魔術は研究者の中で最も大きな難題の一つです」
俺はウンウンと頷いて両腕でばつ印を作った。
「魔術の連射は確かに研究者の最も大きな難題の一つだ。だが、意外と簡単だったりするんだ」
そう言うと生徒たちの顔は信じられないと言っているように変化した。
「まぁ、見てな!『
意外と、魔術という物は単純だ。
不可能だと言われていたことがたった3文字で解決されたりするのだから。
「なに!」
セイルに向けて打った『スタマツ』は何発も彼を通過する。
生徒たちの俺のことを疑う顔はより一層濃くなった気がする。
そうだ、セイルに向かって『スタマツ』を打ったことを忘れていた。
「大丈夫か?」
「うっ……。なんだよこれ!腹痛?」
セイルは腹を抑える。
「『
「誰がこんな物を気にいるか」
彼は腕の力を無くし、銃を落としてしまった。
「勝負ありだな?」
「まだ……」
セイルは絶対に10分は起き上がることはできないだろう。
なんせ常人が一発食らって悶絶する俺の『
「勝負あり!勝者、ピグロ!」
審判のジャッチがついたので俺はセイルを担いで医務室へと連れて行くことにした。
「さぁ、教室に戻りたまえ、医務室にこいつを預けたら授業を始める」
俺は生徒たちにそう言ったが返事が返ってこない。
「返事は!」
「「「はい」」」
俺は頷いて生徒たちを教室に返した。
「ほら、頑張れセイル」
俺はセイルの背中をさすりながら医務室へと向かった。
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