第11話 魔女ビョードー

 ヒナに連れられ、神社へと再びやってきた。

 一応ぐるっと神社の周りを一周してきたものの、先程リュウを追いかけてきていた大人達は見当たらず、ホッとしながら3人はゆっくりと静かに神社のおやしろの前に降りる。


「もう、死ぬ……マジで無理……。あー、つら」

「そんな大袈裟な……」


 リュウはまた降りると同時に、文句を言いながら地べたにごろんと転がる。

 ヒナはそんなリュウを呆れながら見下ろしていた。


「あー、楽しかった! ボクはもう1回やりたい! 元の世界に帰ったらできないと思うと残念だなぁ……」

「バカじゃねーの? ねぇ、バカじゃねーの?」


 うわごとのようにヨシに悪態をつきながら、リュウは綺麗に敷き詰められた石畳の上をゴロゴロと転がる。


「ほーら、リュウくん。そんなことしてたら服汚れてまたお母さんに怒られるだけだし、ダラダラしてたらまたさっきの大人達に追いかけられるかもしれないよ〜?」

「そうだよ、リュウ。早く起きてー」


 リュウはヒナとヨシそれぞれに腕を引っ張られて、仕方なしにむくっと起き上がる。


「わかったよ。そんなに引っ張るなって……! あー、てか本当オレには何の力もなかったんだなぁ……」

「まだ言ってたの。いいじゃん、そんなこと。私は空を飛べてラッキーだったけど、やっぱりこのままこの世界で空飛べるよりかは元の世界に戻りたいよ! ねぇ、ヨシくん?」

「あ、う、うん。そ、そうだね」

「ほら! ヨシくんだってそう言ってる! リュウくんだってずっと追いかけ回されるの嫌でしょ?」

「そりゃそうだけどさ。てか、普通にこの世界は嫌だ」

「でしょう? だったらちゃっちゃと動く動く!」


 リュウはヒナに背中を押されながら、先程も来た水たまりにできた氷がある場所までくる。

 そこは先程と変わらず、キラキラと日差しを浴びて輝いていた。


「いざ帰れるかもしれないと思うと、ちょっとドキドキするね」

「いいから、早く乗るぞ」

「わかったわかった。じゃあ、あのときと同じように、まずは私から乗るね」


 ヒナはそう言うと、「えい!」っと来たときと同じように氷の上に乗る。

 その次はヨシも「……よいしょ、っと」と言いながら同じく氷の上に乗った。

 あのときと同じ光景に、やっと帰れるかもしれない、と思うとリュウは胸がワクワクしてくる。

 ヒナには早くしろと言ったくせに、リュウ自身もドキドキしていた。


「ほら、リュウくん! 乗って!!」

「わかったよ! 行くぜー! あらよ、っと!」


 リュウは勢いをよく2人が乗っている氷の上に飛び乗る。

 以前とは違って3人乗っても氷はびくともせずにそこにあった。


「あー、なんか緊張してきた」

「ほら、リュウくんだってドキドキしてんじゃん!」

「そりゃ、やっぱり帰れると思ったら、な?」

「とにかく、さっさとこの世界からおさらばしましょ?」

「そうだな」


 そして、ヒナが「いっせーの」と掛け声をかけたあと3人は同時に大きな声で言った。


「「「元の世界に帰りたい!!!」」」


 シーン……


「あ、あれ?」


 みんなで一緒に願ったというのに、氷は割れもせず消えもせず。

 未だに3人は氷の上に乗ったままだった。


「な、なんだよ。やっぱり違ったんじゃーん! ヒナの嘘つきー!!」

「う、嘘つきではないでしょ!? 試してみよう、って言っただけだし、みんなもそれに賛成したじゃん!」

「でも、オレは最初反対したしー!」

「それはそれ、これはこれでしょ!」

「そもそもさー、この世界に来ちゃったのだってヒナが噂を聞いてきたからだろー!?」

「な、何よ! 聞きたいって言ってたのはリュウくんとヨシくんじゃない!!」

「ねぇねぇ、2人とも。喧嘩はやめなよ……。別の方法を探せばいいじゃん」


 ヒートアップする2人の喧嘩に、相変わらずヨシはおろおろとしている。

 ……そのときだった。


 バサバサバサ……っ


「きゃあああああ!!!」

「うわぁああああ!!!」

「な、なんだなんだ!??」


 突然3人の頭上に大きな布のようなものを被され、みんな前が見えなくなる。

 一体何が起きたのかわからず、3人それぞれジタバタと大暴れするも、何か不思議な力でも使っているかのように、身動きが取れなかった。


【やぁーっと捕まえた】


 今まで聞いたことのないような声。

 大人達とは明らかに違う声に、3人は身震いした。


【震えているのかい? 可愛いねぇ……。さぁて、ずぅーっと逃げ回っていたようだが、もう逃さないよう? あんたたちにはあたしの城に来て「普通」になってもらわなければならないからねぇ】


 その言葉に、リュウは「こいつはまさか、ビョードーという魔女か!」と気づくも、何かの魔法か暴れても暴れても布から出られず、真っ黒い空間の中に押し込められたままだった。


「くそっ! 出せ!! 魔女め!! オレ達を捕まえてどうする気だ!!!」


 動けないぶんせめて声だけでもと、リュウは思いきり悪態をつく。

 そして、罵詈雑言ばりぞうごん、リュウは思いつくかぎりの悪い言葉を魔女にぶつけて抵抗した。


【おやおや、随分と威勢いせいのよい小僧だねぇ。あたしゃ、うるさい子供がだぁーーーーいきらいなのさ。だからお静かにをし!】


「う、苦し……っ! うぐっ……っ!!」


 突然息苦しくなってもがき苦しむリュウ。

 水の中にいるような、呼吸をしようにもできないもどかしさに頭がおかしくなりそうになりながら、必死にあえぐ。

 そんな様子を察したのか、ヒナもヨシもリュウが危ないと声をかける。


「リュウくん!? ねぇ、リュウくん、大丈夫!?? ねぇ、ちょっと! リュウくんに何をしてるの!??」

「リュウ! 大丈夫か!??」

「う……あ……かは……っ!」


【優しい子供達だねぇ……。友情というやつかい? くっくっく、あたしゃそういう綺麗なものは好きだよ? だが、この悪ガキはこのままにはしておけないねぇ。城に着いたら真っ先に「普通」にしてあげよう。……おやおや、これ以上やったら死んでしまうね。では、ほれ。大人しく城に着くまでお眠り】


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、う……っうぅ……っは」

「リュウくん!? リュウくん、大丈夫!??」

「リュウ! リュウ!!」


 息苦しさがなくなり、必死で呼吸をすると今度は眠くなってくる。

 リュウは必死に抗うものの、なぜか睡魔から逃げられることはできず、遠くで2人の声を聞きながらも、気づいたらリュウは意識を失ってしまっていた。

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