ナイトウォーカーと呼ばれる吸血鬼のような種族の跋扈する世界、対ナイトウォーカー専門の軍人を養成するための兵学校に通う、名家の優秀な兄弟のお話。
わくわくする設定がてんこ盛りの現代ファンタジーです。吸血鬼にそれを討伐する人間の部隊、およびその隊員を養成するための特別な学校に、優秀な隊員を輩出してきた歴史ある名家。ちなみに主人公はその名家の二兄弟のうちの兄で、全校生徒の信望も厚い優秀な生徒会長という、この出し惜しみのなさが嬉しい作品でした。はっきりしたエンタメ性、それもどう楽しませたいのかの方向付けが明確な作品は、それだけで素晴らしいものだと思います。
お話の筋はやはりナイトウォーカー(吸血族)の討伐、学生に擬態し学内に潜入したそれを、密命を受けた主人公とその弟が調査・発見して駆除するまでの物語です。なのですが、でも実質的な本筋というか本命というか、このお話の肝は主人公とその弟、彼らの微妙な関係性とそれゆえに生じる複雑な感情にこそ存在します。
表向きの顔と本心に落差のある主人公。彼がその弟に対して向ける憎悪あるいは嫌悪のような感情は、一見屈折しているようでいてその実どこまでも単純というか、とにかくなかなかに凄まじいものがあります。ネタバレになってしまうため詳しく書けないのが残念ですが、最後なんかはもう非常にたまらんものがありました。自尊心に強い敵愾心、そしてそのまま殺意になるほどの劣等感。それらが男同士の関係性の中にみっちり詰まった、そういうのが好きな人をまっすぐ刺し殺しに来る作品でした(殺されました)。