僕は魔術師だ

なんかかきたろう

僕は魔術師だ

20200725 僕は魔術師だ


 深夜二時五十五分。六畳の畳の部屋、そのはしっこ。電気もつけず、月の光もなく、うつむいてただ一人。つぶやいている。


 「僕は宇宙の一部だ。アスファルト、ごみ箱、アフロディテ、それらとなにも変わらない一部だ。」


 倦怠が彼の部屋を支配していた。そこには現実はなく過去もなく、あるのは朽ち果てた未来だけだった。


 「僕は影だ。僕の中に光の元素はなく、僕一人では決して完結しない存在なんだ。仄かな光が欲しい。優しく照らしてほしい。そうして初めて僕が世界に表現されるんだ。」


 遠く響いた犬の遠吠えは彼の杜撰な聴力に届かなかった。彼に聞こえているのは、ただ暖かいだけの人口の、不自然なささやきだけだった。


 「僕はスピードだ。」


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僕は魔術師だ なんかかきたろう @nannkakakio

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