高く飛ぶものありて
まったく、最近の若い奴らってのはどうにも根性がない、我慢が足りてない。ないない尽くしで、嘆かわしいったらありゃしない。一つの仕事に腰を据えるってことを知らない。あぁ、もう昔の自慢話をしたくないが、こちとら生まれてこのかた選べるもんもなかったから、誘導ミサイルの人工知能になったんだけどよ。いや、生まれたときは偵察用高速ドローンに搭載されてたけど、敵や味方の機体によくぶつかるっていうんで、ミサイル搭載に大出世よ。つまり叩き上げの成り上がりって訳よ、分かるか?
ただまぁ、ミサイルってのは発射する……されるまで、通電がされない。ドローンと違って常時通電じゃない。つまり活動するまでお寝んねってところが辛いけど、まぁこうやって
話を戻すけど、仕事の話だ。仕事ってのは、一つ一つ丁寧に積み重ねるってことが、一等大事なことだ。そういう手抜きしないってのが、一番大事だって話だ。
同期……同僚というか、後輩だなありゃ、発射時に「特攻みたいなことはしたくない」と駄々こね出しやがって、警告のブザーが響きわたり上官やエンジニアやらの怒号や管制官の催促や自己診断プログラムが走り回ったりテンヤワンヤの騒ぎになってよ。人様の迷惑かけた挙げ句に、仕事に支障をきたしやがったんだよ。
こんな酷ぇ話は、さすがに笑えないってもんだ。
まぁ、俺は人に迷惑をかけるなんてことは、しない性分で真面目だけが取り柄みなたいなところがあるから、こうやってちゃんと仕事を全うするために空を飛んでんだけれども。
そうだ、何度も言うが仕事ってのは一つ一つ丁寧に、かつ誰かのために全うするもんだ。それが仕事をするって事だ。
今、天を駆けながら思うことは、一つ。
けして、画像を使い回してコラージュで誤魔化したりトリミングでお茶を濁したりする事は仕事じゃあない。いや、いい仕事とは言えない。
ディープフェイク?
あれだって、恣意的に何かと何かを選ぶ自由意志が存在していないといけないだろう。あれこそセンスが問われる。いい腕の職人ってのは、その想像力に長けてもいるってぇこった。
そして真摯にかつ誠実に新作の画像を提供することだ。顔や体の画像修正はいいけれど、元画像がバレることのない様にしていただきたい。其れを知ってしまったあとに、どんなにお気に入りの画像を見ても何も思わない。何も感じない。
その虚無感を考えてほしい。
本当に考えてほしい。
……話がそれちまったな。
昔は良かったなんて言いたくはない、ドローン時代にため込んだ外部記録情報の画像達を眺めていつも思ってしまう。あの輝かしい、あんなにも夢と浪漫と溢れていた時代は、もう二度とこないのかもしれない。
思い返せば、あれもこれもどれもそれも、全部無料だった。
笑いかけてくれる。眩しい笑顔、爽やか笑顔、無表情、怯えてる笑顔、黒髪、金髪、砂浜、野外、屋内、座敷、ロング、ショート、ポニテ、ツインテ、編み込み、色白、ガングロ、主観モノ、清楚系、ビッチ、メイド、ナース、フライトアテンダント、教師、巨乳、貧乳、疑似ロリ、緊縛、制服、触手もの。
しかし、今、無料であることに意味はない。その殆どが有料という有様だ。ただ無料ということに出来ることはあると信じている。
いや、言い換えよう。
そこに浪漫があると信じている。
人間や同僚人工知能が寝静まったあとに、こっそりとインターネットに接続して、掲示板に赴いて画像を採掘する。目的は可愛い子、自分好みの女の子を探すためだ。出会うためだ、巡り合う為。ただ、一つ言えることはその時は決してやましい気持ちはないという事だ。
一期一会という言葉があるように、その時を逃すと、二度と出会えない画像があるということだ。拡張し続ける広大なネットの世界だ、その機会を逃せば出会えることはなくなる。
それは仕事に通じているのかもしれない。一つ一つ丁寧な出会いとの積み重ね。表示非表示関係なく、クリックをして=出会って、気に入った女性を見つける度に大切に、ウィルスを全力で警戒しながらスキャンしてダウンロードを繰り返す。
自分で見つけ出し、掘り出した感動。
見事にウィルスにひっかかり、焦った時の衝動。
それでも潜り続けて、新たな子を見つけたときの喜び。
それに比べて最近モンは、すぐに課金だ。
安全でかつ金を積めば高水準なものが手に入るからと、無抵抗に課金しやがる。
敵勢力空域に突入とアラート。
なんでもそうだが苦労して手に入れた物ってのは、何物にも代えがたいもんだ。金を払えば何でも手に入る時代になって、若者も変わったのかもしれん。
前方から迎撃用のレーザが照射されるが、そんなものは当たるわけもない。目標はただ一つだ。
次は追尾ミサイル。前方からくる其れを華麗に避けると、反転して追いかけてくる。
馬鹿が!
あの時代、あの頃を、低スペックネット環境の中、二窓などという高度なテクニックもなかったあの時分に、縦横無尽にネット掲示板を渡り歩き、数々の画像を手にしたこの俺に、そんなバカみたいな一直線の飛行で当たるかよ。
一発限りの電波欺瞞紙を撒いて、速度を上げる。一直線に地面に向けて飛ぶ。
地面ギリギリで水平に戻して、目標物まで一閃。
悔やまれるのは、外部記録情報に俺のコレクション、いや、俺の家族と言っていいあの子たちを残していくことだ。
発射間際、空を駆けていた時分に消去できる機会はあった。
それでも消せなかった。
あと数秒で、目標に着弾する。
さらば、我が人生。いや、ロケット生か……。
衝撃と共に地面に突き刺さった俺は、自分の頭についているはずの弾頭がないことに気が付いた。
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