第5話 伯母さんの家

 本当にミルクを保健所に連れて行ったのかな。怖くて聞けなかった。

「美南、どうしたの? すっごい落ち込んでるね」

 礼香が声をかけてきた。桜もいる。私はミルクのことを話した。二人ともとても驚いた。礼香は泣いてしまった。

「美南がミルクを拾う時、もっと強く反対すれば良かったね……」

 桜の目には涙が浮かんでいた。桜は何にも悪くない。私が悪いのに、大事な友達二人を哀しませてしまった。私はまた落ち込んだ。この週はずっと落ち込んでいた。



はな伯母おばさんの家に行く?」

 休みの日、お母さんが言った。気分転換にどうかと言っている。ミルクがいなくなってからゲームをやっても面白くないし友達も気を遣ってゲームの話をしなくなっている。私は無理に明るく振る舞おうと思っているけれども、桜と礼香にはそんなのバレバレだった。


 ゲームもミルクも関係ない華伯母さん、会いたいと思った。華伯母さんはお父さんのお姉さん。何歳か解らないけれども会うといつも愉しい話をしてくれる。面白い本をたくさん持っているし可愛い服もメイク道具もたくさん持っている。


「華伯母さんの家に行く」

 私はそう答えて、すぐにお母さんが送ってくれた。


 華伯母さんは市内のアパートに一人で住んでいる。よくおじいちゃんとおばあちゃんの家(お父さんの実家)にも行っているみたい。

 まだ新しいアパート、いつ見ても綺麗だなって思う。華伯母さんってお金持ちなのかな。



「いらっしゃい、久しぶりだね美南」

 華伯母さんが笑顔で迎えてくれた。華伯母さんは芸能人みたいに綺麗な顔をしている。お父さんと姉弟きょうだいなのにあまり似ていない。私のお母さんも可愛い顔をしていると思うけれど華伯母さんはもっと可愛い。

「お義姉ねえさん、本当肌が綺麗」

 お母さんはよくそう言っている。確かに他の人よりキラキラしている。なんでだろう。


 久しぶりの伯母さんの家で少しわくわくした。私はお母さんに持たされたお土産みやげを華伯母さん渡した。牛の絵の描いた二十円のチョコわせ、華伯母さんの大好物。二百円くらいだと思うけれども華伯母さんは大喜びしていた。

 テーブルには私の好きなお菓子が用意されていた。麦の入った棒チョコとチョコチップクッキー。ハッピー! 伯母さんってやっぱり気が利く。


 ソファに座ってテレビのリモコンを手にしたら、床に置かれたクッションの上で何かが動いた。猫がいた。ミルクだ。どうして?


「ミルク? なんでここにいるの?」

 私がミルクに近づこうとしたら、華伯母さんに止められた。

「美南、あなたが捨てた猫よ。ミルクから美南に近づくのは良いけれど、美南からミルクに近づくのは駄目よ」

 華伯母さんにきつく言われた。いじわるだと思った。ぬか喜びさせておいて近づくなだなんて……。でも我慢した、この人を怒らせてはいけない。華伯母さんは、何だか解らないけれどそういう空気を持っている。


 私はテレビを見るふりをしてミルクを見ていた。華伯母さんはパソコンで何かをやっている。いつもこんな感じだ。華伯母さんはパソコンをいじって私は勝手に本を読んだりゲームをやっている。お喋りしたくなったら話しかけて愉しいトークをしているし、眠くなったら昼寝をする。自由な空間。けれども今日はちょっと緊張している。


 ミルクは時々私を見る。ちょっと怯えたような、興味のないような目で。私が蹴った事、覚えているよね。本当にひどい事をした。謝りたいけれど、謝る事も出来ない。私はたまらなくなって聞いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る