第4話 猫を飼う
一ヶ月くらいすると、ゲームの進み具合がみんなに比べてかなり遅れていることに気づいた。ヤバイ、いつの間に。ミルクと遊んでばっかりだったからかな。ゲームやりたいな。いつもはミルクと遊ぶけれど今日はゲームをやろう。
「ミルクにごはんあげたの?」
「ごめんお母さん、宿題が多いから今日はお母さんがミルクにごはんあげて」
嘘をついてしまった。バレたらどうしようってどきどきしていたけれども何も言われなかった。意外に行けるじゃん。それからも宿題が多いふりをして、私は毎日部屋でゲームをやり続けた。
ある日、ゲームをセーブモードにして台所にジュースを飲みに行った。戻ってきたら画面がゲームオーバーになっていた。せっかくみんなに追いつきそうだったのに。
「なんで、どうして?」
私はショックを受けた。足元にミルクが寄ってきてすりすりをした。
「ミルクがボタンを押したの?」
ミルクは私を見てにゃあと鳴いた。ミルクの目はまっすぐに私を見ている。顔は笑っているように見えた。何も知らずにボタンを押した。猫だから。何も知らずに笑っている。猫だから。
私は一瞬にしてミルクが憎らしくなった。ミルクがもう一度にゃあと鳴いて顔を私の足にすりすりした。私は頭と体がカッと熱くなった。気づいたらミルクを
ミルクは私の足から離れて小さい体が飛ばされた。ポンッと小さく音を立ててクッションに吸い込まれた。
ミルクは一瞬驚いた表情をしてそのあとすぐに
私は泣いた。みんなに追いつく為に必死でゲームを進めてきたのに、ミルクがボタンを押したせいで全部駄目になったから。またみんなとゲームの話が出来ない。悔しくて泣いた。
次の日、お母さんからミルクを保健所に連れて行くと言われた。
保健所? 処分? 嘘でしょ。殺されるの? 色々な単語が頭を巡った。ショックで考えがまとまらなかったけれども、ミルクが殺されるということだけが解った。
「やめてよ! なんでそんなことするの!」
ミルクを殺すなんて絶対駄目。私は叫んでいた。
「美南、最近の自分を思い出してみなさい。ミルクの世話は誰がやっていた? お母さんだよね。その
私はずっとゲームをやっていた。宿題が多いと嘘をついて。ミルクを飼う時、私がごはんをあげると約束をした。学校に行っている間やお友達と遊びに行っている時はお母さんに頼んでもいいと言われた。けれども私は家にいる時もずっとお母さんにミルクの世話を任せていた。
「本当に猫を飼う気持ちがあるの? この先旅行にも行かないでゲームも我慢して猫の世話が出来るの? 動物を飼うというのはそういうことだよ」
ミルクは誰かがごはんをあげないとごはんを食べられない。誰かが水を取り替えないと新しい水が飲めない。私だってお母さんがいないとごはんを食べられない。洗濯機の使い方を知らないので、お母さんがいないと洗濯した服を着られない。
私はミルクの気持ちを自分に置き換えてみた。なんてひどい事をしたのだろう。涙が出てきた。ミルク、ごめんなさい。ミルクはまだ小さいのに、私がミルクを飼うって言ったからミルクは家に来たのに。それに私は、あんなに小さいミルクを蹴ってしまった。心が痛い。けれどもミルクはもっと痛かったよね。
「次に同じ事をしたら美南が自分でミルクを処分するのよ」
お母さんの言葉に心臓がどくん、と鳴った。……私にはきっと無理だ。私は動物を飼えないと言った。泣きながら謝った。ミルクに、お母さんに。
本当にミルクがかわいそうだと思うなら離れなさいと言われた。私は「はい」と一言だけ言ってあとはずっと泣いていた。そのあとミルクには会わせてもらえなかった。明日私が学校に行っている間、ミルクを保健所に連れて行くとだけ言われた。
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