第2話 いつもと違う帰り道

 今日はさくらと帰ることになった。夕方お母さんが桜の家に迎えに来てくれるからちょっと遊べることになったの。礼香は来れないから今日は一緒に帰れない。桜と礼香の家は反対方向なんだな。残念だな。桜と礼香と私は同じクラスで仲良し三人組。


 桜は頭が良い。絵や作文のコンクールでよく入賞している。でも桜はおとなしいからいつも喜び方がひかえめ。けれども全然嫌味いやみじゃない。私だったら「ハッピー!」って叫びまくるんだろうな。入賞なんてしたことないけれど。

 それに桜は美少女なのよね。礼香が可愛いだとすると、桜はザ・美少女って感じ。色白でまつ毛が長くてバサバサしている。おかっぱの髪型も、いつもサラサラ。桜は「目が重い」と言ってあまりまつ毛が好きじゃないみたいだけれども。頭が良くて美少女だなんてアニメのキャラみたい。


 いつもと違う帰り道にちょっとどきどきした。桜はいつもこの道を一人で帰っているのか。長くないのかな怖くないのかな。こっちの道はお店やアパートが多いなと思った。お年寄りが結構歩いている。人通りが多いのでちょっと安心した。桜に話しかけようと思ったら桜は少し遠くを見ていた。何かあるのかな。


「捨て猫だ」

「え、あ本当だ」

 段ボールに小さい猫が入っている。【優しい人に拾われてください】と紙に書いて貼ってあった。

「拾う、か。物みたいな言い方」

 桜が哀しそうな顔をして言った。それともちょっと怒っているのかな。私と違って桜はあんまり感情を出さない。


「かわいそうだな」

 私と桜が同時に言った。そのあとは言葉が出てこなかった。

 私はこの間見たアニメで、拾った猫が実は魔法使いだった話を思い出した。猫がお礼に飼い主の願いを叶えた話だった。


「私、この猫飼おうかな」

「え? もしかしてこの間のアニメに影響受けてる?」

 さすが桜、お見通しだ。ちょっと恥ずかしくなった。

高槻たかつきくんも言っていたもんね。あのアニメで猫を拾った人が素敵だって」

 さすが桜、するどい。何もかもお見通しだ。確かにそれもある。高槻くんは私が気になっている男子なのよ。


「おうちの人に聞いた方がいいと思うよ」

 桜がちょっと困った顔で言った。桜は私と違って真面目まじめだからこういうのを気にする。私はあんまり深く考えないで決めてしまう。

「お母さん、猫可愛いって言ってたし多分大丈夫でしょ。それに説得するから!」

 私はガッツポーズを決めていた。こうなったらもう何を言っても無駄だと桜は知っている。

 私は猫を抱いて帰り道を歩いた。一旦いったん桜の家へ。桜の家は動物を飼っていないので外で遊んだ。少ししたらお母さんが迎えに来た。猫を見てとても驚いていたけれども特に何も言われず車に乗った。もしかして飼ってもいいのかな? わくわくした。


「ばいばい」

「ばいばーい、また来週」

 私は笑顔で桜に手を振った。お母さんも桜に笑顔でおじぎをした。ご機嫌だ、これは行けるんじゃないか? けれどもお母さんは何も言わず、何だか話しかけてはいけないような空気だったので車内はずっと無言むごんだった。


 家に着いたらとても怒られた。どうして勝手に飼うことに決めたのか、勝手に連れてきたのかと言われた時は「桜の言う通りだったわ」と後悔した。

 お母さんだって猫が可愛いって言っていたじゃないの、そう思ったけれども怖くて言えなかった。でも桜に説得するって言ったんだから頑張らなくちゃ。私は猫の可愛さとかわいそうさを訴えた。

 そしてついに勝ち取った。明日からの四連休だけは家にいてもいい権利を。そのあとのことはその時になってから考えればいいや。



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