私たちは忙しい

青山えむ

第1話 コスモス

 私はいそがしい。五年生にもなると宿題が増える。今の担任、特に多いんだから。隣のクラスはそんなに宿題が出ないみたい。ずるい。なんで私たちのクラスばっかり。


「隣のクラスは夏休みの宿題が多いので同じですよ」

 担任はそう言っていたけれど、夏休みの宿題なんて全クラス同じに決まっている。

 担任の伊東いとう先生はクセモノだって誰かが言っていた。ぼそぼそと小声で話すのでよく聞こえない。「皆さん自分でやってくださいね」が口癖くちぐせ。体育の奥村おくむら先生のことが好きらしい。


 毎日毎日プリントと問題集と一人勉強。何ページ分あるんだろ。家に帰ったらすぐ宿題をやらないといけない。テレビも見れないなんて。高学年は大変だな。

 おかげでゲームの時間が減ってしまった。五年生になったからちょっと難しいゲームも出来るようになったのに。

 今私たちの間で流行はやっているゲームがある。敵に水をかけて倒していくゲーム。最初は簡単だと思ってやっていたんだけれども、だんだん敵が増えてきたり早くなったり難しくなっていく。クリアに時間がかかるんだなー。んで友達がクリアするとちょっとあせるのよ。ランクが上の話をされるとついて行けなくなっちゃうから。


美南みなみはまだ?」

「もう少しなんだよね」

 そう言ってごまかす。いや、本当にもう少しなんだよね。こんな風に友達と(ゲームの)レベルを合わせる気遣きづかいも必要だし。苦労も多いのよ。

 それにゲームは遊ぶ時間が限られている! 時間を破ったらゲーム機を取り上げられるから守っているよ。お母さんとの約束。お母さんのことは大好きだからね。お父さんも好きだけれど……ちょっと下品だなって思う瞬間が多いかな。おならとか。


 いつも一緒に帰っている礼香れいか。礼香は私と同じクラスで、ファッションやメイクに興味のあるお年頃だって自分で言っていた。学校にも色つきリップをってきている。こないだ「まつエクやってきた」って言っていたけれどあれ、本当かな? 小学生でも出来るのかな?


「つけまつ毛じゃないの?」

 お母さんに聞いたらそう言っていた。のりみたいな物でまつ毛の模型もけいみたいな物をまぶたに貼れるんだって。それってはずす時痛くないのかな。そういえば礼香、そのつけまつ毛? やってきたのは一度きりだったな。やっぱり痛かったのかな。礼香のメイクに対するこだわりはすごいもんな。アイシャドウ二十個持っているって言ってたもん。

 

 今日も礼香とおしゃべりをしながら帰る。今日はコスモスを見た。白やピンクや黄色のコスモスがたくさん咲いていた。可愛い花だな。

「美南は何色のコスモスが好き?」

「うーん、黄色かな。明るい感じが好き」

「黄色のコスモスの花言葉は野生やせいの美しさよ。いつも明るい美南にぴったりだね」

 野生の、ってとこが気になったけれども多分められている。明るいって言われるのも嬉しい。


「礼香は何色が好きなの?」

「私はやっぱり白かな」

「白のコスモスの花言葉は?」

優美ゆうび美麗びれいよ」

 礼香はちょっと得意げに言っていた。

「どういう意味?」

「多分綺麗きれいって意味よ」

 礼香は自信たっぷりに言っていた。多分、ってついているけれど。礼香は可愛いもんなー。きっと将来綺麗になるんだろうな。じゃあ礼香にぴったりじゃないか。私のことも明るいって言ってくれるし、なんだかコスモスって素敵な花じゃない?


「ハッピー!」

 テンションが上がって叫んでしまった。ぎりぎりえているツインテールが少し揺れる。

「びっくりした。美南はいつもいきなりそう言うよね」

 礼香が目を丸くしていた。だってハッピーなんだもん。


床屋とこやのぞいて行こうね」

「今日はお客さんいるかな」

 通学路にある床屋はガラス張りで中が見える。お客さんがいない時、店主のおじさんはテレビを見ていたり私たちの下校を見守ったりしている。変な人がいたり困ったことがあった時、この床屋へ助けを求めればいいんだって。子どもSOSシールが貼ってあるお店。

 今日はお客さんがいないのかな、おじさんが外に出ている。学校帰りの小学生が声をかける。私と礼香も声をかける。

「さようなら」

「はいさようなら、気をつけて帰るんだよ」

 おじさんはいつも笑顔でそう言ってくれる。挨拶あいさつ出来た日はちょっと嬉しくなる。

 床屋にお客さんがいておじさんに会えない時は中を覗く。それが私たちの日課。

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