第39話僕(私)の出会い系物語

 僕(私)の日記はいつまで経っても出会い系サイトの日記ランキングの一位どころか百位内にも入らない。それでも小説家になりたい僕(私)の日記の閲覧者数は毎日百を超えるようになった。それでもいいねをくれるのはおじょこさんとマロン君、たまに静香さんだけである。かずやさんは足跡をつけなくなってからただフォローし合ってるだけの関係だ。『ナニワの金借り』さんはピュア日記ランキング男性部門で八十位あたりをキープしている。僕(私)は気付く。『ナニワの金借り』さんはいろんな人の日記へいいねもコメントもたくさんしている。男女問わず。だからあんなに男なのにいいねやコメントを貰えるんだ。それは『お世辞のいいね』だと思う。と同時に僕(私)もマロン君やおじょこさんへ『お世辞のいいね』を押したことがある。モヤモヤ。そしてその日は突然やってきた。


 ちひろの日記。その日、日記の〆に『いい夢見ろよー♪』と書いた。いつもは『悪夢を見ろよー♪』と書いてたのだけど。そんな気分だったから。それに対しコメントが書き込まれた。


「金借りさんのパクリやん」


 それを見た僕(私)は「え?」と思った。全く知らない、接点もなかった男性からの書き込み。この人は柳沢慎吾さんを知らないの?とか、それをいちいち説明しなきゃいけないの?とか、これって完全に『悪意』でしょ?とか。いろんなことを考える。僕(私)はいろいろと考え込んだ。なんだろう。レモンティーに牛乳を入れられたような。『お世辞のいいね』を押さなければ、『お世辞のコメント』を書かないと評価されない世界。閲覧はするくせに。僕(私)はこのサイトを退会することにした。その『悪意』のコメントを書き込んだ人には返事を書く。


「コメントありがとうございます。あとあなたを特定しました。ジャスト九十日後、約三か月後ですね。リアルで何かが起こると思います」


 僕(私)の嫌がらせ。人間は想像の生き物。言葉で恐怖を想像させるのは小説家になりたいものなら誰でも得意だと思う。そして最後の日記を書く。するとおじょこさんからメールが。


「ちひろさん。退会するって本当ですか!?」


 ポイントは山ほど残ってある。ポイントをどんどん使っておじょこさんへメールを返信する。


「はい。残念ですが。このサイトに登録する時、いい人に出会ったら退会すると決めてましたので…」


「そんなあ…。ぷろでゅーさーさんにもう会えなくなるんですか?私はもっともっとぷろでゅーさーさんやちひろさんとのやり取りが見たいです…」


 返事を打ち込む僕(私)の胸が痛む。


「残念ですが…。でも自分で決めたルールなので…」


「実は私、独身と書いてますが結婚もしてて子供もいます。漫画家になりたいって言ってましたけど本当は漫画家になりたかったんです。年齢も四十を超えてます。平凡な毎日に刺激が欲しくてこのサイトで日記コーナーにイラストだけを見てもらおうとやってました。ぷろでゅーさーが見れなくなったら明日から私は何を楽しみに生きて行けば…」


 僕(私)の頬を涙が伝う。そして最後のメールを書く。


「そうなんですね。最後にそれを聞けてよかったです。もし、毎日が退屈で。旦那さんへの愛情がとっくに冷めているのなら。少しでもいいです。大事な人の『死』を想像してみてください。そうすればきっと相手に少しでも優しくなれると思いますよ。これまでありがとうございました。またいつの日か。会える日を信じて。千尋より」


 そして僕(私)は今まで書きこんだ日記やプロフィールもすべて削除してからそのサイトを退会した。



 人生に『出会い』はとても大切だと思う。誰に出会うかで人生は変わる。師、伴侶、友、先輩、後輩。それは人でなくても本や映画など創作物であったり。いい出会いもあれば悪い出会いもあるのかもしれない。人は本当に一人きりじゃあ生きられない。僕(私)はこれからも多くの『出会い』を繰り返すのだろう。そして『別れ』も繰り返すのだろう。これはひとつの『出会い』の物語。


 僕(私)の出会い系物語。

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僕(私)の出会い系物語 工藤千尋(一八九三~一九六二 仏) @yatiyo

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