第29話万引き

 かずやさんの日記は相変わらずだった。そしてある日。かずやさんは僕(私)の日記をパクった。ぷろでゅーさーではないけれど、それに似たようなキャラを登場させ。一人で肯定と否定をぶつけ合うテレビドラマの台本のような日記。その日記にはたくさんの賞賛コメントが寄せられていた。


「さすがかずやさん。今度は新しい書き方ですね!」


「これは面白い!新しいことをサラッと書けるかずやさんって本当に文章が得意ですね。うらやましいです」


「斬新で画期的と言うか。誉め言葉がチープになるほど面白いです」


 僕(私)はそれらを見てすごくがっかりした。かずやさんは卑怯だ。あれは見る人が見れば僕(私)が普段書いている日記のぷろでゅーさーとちひろのやり取りそのままである。そしてそのアイデアの賞賛はかずやさんのものとなっていて。いろいろと考え込む僕(私)。冷静になれないけれど冷静になる。ネットで書くということはそういうことである。僕(私)は紙の応募に拘っている。昔、出版社で働いていた知人が言ってたのを今でも覚えている。


「紙の応募で送られてきた作品から『いい表現』だけを盗むことはよくあるよ」


 なんだそれ、と僕(私)はその時思った。でもそれは都市伝説でもなく現実によくある話であり。ツイッターにもパクツイは山ほど溢れていて。でもツイッターには投稿した日時が正確に表示される機能があり。明らかに後からパクツイした人のツイートがバズることはよくある。それにこのかずやさんの日記のコメント欄に僕(私)が「これはちひろの日記のパクリじゃないですか?」と書き込んだとして。スッキリするのは僕(私)だけであり。少なくとも明確な証拠がない限りかずやさんは「言いがかりはやめてください」と言うだろう。僕(私)も会心の文章、表現が書けたと思っていても実は過去の書き手が同じようなことを先に書いていたと言われたらごめんなさいと謝るしかなくて。田口ランディさんは『万引き』『盗作』とまで言われてたし。こういうのって真実を口にすることは難しいことであり。実際にかずやさんが僕(私)の日記を見てなかった、そのうえでこの表現を自分で思いつき書いたのなら。一時の感情でコメント欄を荒らした僕(私)は悪者になる。でも僕(私)の日記がなければ絶対にかずやさんはその表現を出来なかったと僕(私)は確信を持って思っている。


「盗作?パクられた?なら応募しなければいい」


 そんな言葉を思い出した。でも応募しなければ小説家にはなれない。ネット小説投稿サイトでも『盗作騒動』や『パクリ疑惑』は多い。


「ならネットにあげなければいいじゃん」


 そんな簡単な話ではない。ただ一つだけ。僕(私)は言葉に著作権は存在すると思っている。それから『パクられた』とか騒ぐのは疲れるだけ。新しいことをドンドン書けばいいだけのこと。それをドンドン同じ人に真似されたらもうその人には勝っているのだ。文学を舐めるのは書き手として一番やってはいけないことであり、それをやってしまえば物語が可哀そうであると思う。だから僕(私)はその日も自分の作品としっかり向き合う。小説家になりたい僕(私)はこんなことで物語や書くことを置き去りにしてはいけないと自分に言い聞かせる。

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