第27話かずや(岐阜県 三十四歳)

 帰宅した僕(私)はまずサイトをチェックする。かずやさんは僕(私)の日記をフォローしてくれた。男性で登録してるにも関わらず一人目に続き、二人目の日記のフォロワーが男性になるとはさすがに予想してなかった。けど嬉しい。僕(私)の日記、すなわち文章に興味を持ってくれた。書き手としてこれほど嬉しいことはない。コメントとかいいねはないけど。でも嬉しい。僕(私)もかずやさんの日記をフォローする。かずやさんはかなり丁寧な日記を書く人だった。かずやさんの日記を読めば、見れば分かる。まず、かずやさんの日記はいろんな人がコメントを書いてあり、いいねもたくさん付いている。いくつか読んでみる。僕(私)にはピンとくる。この人は『書くことを得意としている』人だ。そして『他人の文章をそれっぽくアレンジして自分流に書く』人だ。普通の人がかずやさんの日記を読めば『この人はすごく文才がある』と思うだろう。僕(私)はさすがにいいねは押せない。少し気取った言い回しや冗句を交えた自虐ネタ。これって〇〇って作家さんの…。僕(私)は何とも言えない気持ちになった。


「さすがかずやさん。今日の日記もとても上品で文才を感じます」


「素敵な言葉ですね。詩人みたいな言い回しでとてもいいと思いました」


「奥様が羨ましいです(笑)」


 かずやさんは既婚者として登録している。つまり『出会い』目的ではないのだ。この人も僕(私)と同じような目的でこういうサイトに登録したのかなあとか思ってしまう。そしてモヤモヤしながら僕(私)は自分の作品をまずは書く。書きながらいろんなことを考える。


 はあ、次もまたダメだったらどうしよう。下読みの人は本当に読んでくれてるのかなあ。僕(私)は何をやってんだろう。非生産的な。いや、生産的なんだろうけど。自己満足で世に出なければ何の意味もない生産。

 そしてちひろとしての日記を書く。五日目。


「ワイシャツに口紅で修羅場」


 この番組は体にピース!目つぶし、おはようからおやすみまでどころかVRオナニーまでじっと見つめるホントにホントにホントにホントにライオンだ、餃子の歩、以上各社の提供にてお送りします。


ぷろでゅーさー「おい!お前!」


ちひろ「はい?」


ぷろでゅーさー「数字悪い!お前!スポンサーの『体にピース』!の目つぶしさん。降りるって言ってきとる」


ちひろ「ホントですか!?」


ぷろでゅーさー「ホンマやがな。お前。このままでは打ち切りやぞ(たばこすぱあああああ)」


ちひろ「すいません!体張ってでも頑張りますんで!」


ぷろでゅーさー「ほおー。『体張って』って言ったよなあ、今」


ちひろ「へ?」


ぷろでゅーさー「お前さあ。なんか『アツアツのおでん』好きやったよなあ」


ちひろ「へ?」


ぷろでゅーさー「いや、お前は『アツアツのおでん』が大好きやったやん?特に両手を後ろで固定された状態で口に無理やり『アツアツのこんにゃく』とか突っ込まれるのとか大好きやったやん?」


ちひろ「はい!ちひろは『アツアツのおでん』が大好きであります!」


(この後、『アツアツのおでん』はスタッフで美味しく頂きました)


「うわあー、シャレにならん…。このままではあれやで…。で、えーと。『ワイシャツに口紅』ですか?これは番組に送られたお便りですね。えー、ラジオネーム『余談さーどながしま』さん(これって…、すちゃだらさんに怒られるんじゃねえの?)。えー、初めまして。DJちひろさん。(はじめまして!)いつも楽しく番組を聞かせてもらってます。(ありがとう!)実は旦那のワイシャツに口紅がついてました。その日から何もかもが信じられません。どうすればいいでしょうか?うーん、なるほどね。万が一ですよ。それが満員電車でうっかりたまたま付いたものかもしれませんよね(かもですよ!かも!)。漫画でも『サラ金(サラリーマン金田一少年)』で浮気した金ちゃんの相手がわざと出張した時の着替えに長い髪の毛を挟んでおいて嫁さんにバレちゃうシーンがありましてね(じっちゃんの何かける!)。旦那さんの浮気相手からの挑戦状かもしれません。実家に帰るのもありですがそうすれば必死になって言い訳してくると思います。聞くだけ聞いてあげるのもいいと思います。でもねー。ちひろの経験からですけど、浮気する人は一回やれば絶対繰り返すと思うよー。おんなじことをやり返すのが一番相手に与えるダメージはデカいと思いますが…、それはやって欲しくないかなあー。『余談さーどながしま』(こんなにいい質問なのにラジオネームが…)さんが本当にいいお相手を見つければ話は別ですが。出会いって、出会わなければいいことも確実にあると思ってますので。こんな感じかな?」


ADさんカンペ(まきで)


「あ、すいません!なんか時間みたいです!それではこの後ぷろでゅーさーさんのコーラを買いに行かないとなので。ではまた!」


 僕(私)は更新ボタンを押す。閲覧者数は一気に三十を超えた。コメントもつかないしいいねもつかない。けれどコツは分かった。タイトルだ。相変わらずポイントを使わせようと「気になります」メールが来るけど僕(私)へのアプローチは今後、日記を通して欲しい、事務所を通すのと同じように。

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