第14羽 文芸部員、登場
午後の授業と帰りの
――すみません
掃除当番だったので遅れて見学に向かいます
先に部室に行っておいてください
その連絡に「分かった」とだけ返信する。ロクのチャットは基本的に愛想がなく、スタンプはたまに使うが絵文字などは一切使用しなかった。
「じゃあ、部活行ってくる」
「おう、ばいばい!」
大樹に別れを告げて教室から出ると、廊下は多くの生徒で賑わっていた。
授業が終わって浮かれる者、部活の開始時刻に追われる者、職員室に向かう者、走って怒られる者。
彼らの間を潜り抜け、文芸部の部室に足を運ぶ。ガチャリと部室のドアを開け、
「お疲れ様で……す!?」
閉めた瞬間、ロクに衝撃が走った。まず目に付いたのが、死んだ魚のように長テーブルの上に横たわっている男子の姿だった。
ぐてぇっと全身から力が抜けていて、もしや魂までも抜けてしまったのではと思わされる。
「やあ、おつかれ!」
そんな彼に目を奪われていると、とある人物から挨拶をされた。部室の最奥に置かれた、少しお洒落な椅子に座る彼女はこの文芸部の部長だ。
黒く艶のある長髪と、赤色の眼鏡が美しい。名を
「……これ、どういう状況ですか?」
「まあまあ、色々あったんだよ」
「色々って……」
ロクはその場に立ち尽くした。その視線は、余すことなく死んだ(ように見える)男子、
「いつも元気な御堂が、こんな
「ふふふ。原因は君にあるんだよ、ロクくん」
「え、俺?」
「そうさ」
ロクが自分を指差して尋ね返すと、すみれはしかと頷いた。だがなおさら分からない。どうして何もしていないロクに原因があるのだろうか。
「雫、説明してやりなさい」
「御意」
すみれの指示に従い、ずっと大人しく座っていた
「事件が判明したのは
(……うん?)
「容疑者、
小さな口から語られる事件の概要に、ロクは嫌な汗を掻き始める。
「桜庭ロクは、一人ではなかった。桜庭ロクは、一人で買い物をするような家庭的な人間ではなかった。桜庭ロクには、共に買い物をする何者かがいた」
ダラダラと流れる嫌な汗。しかし焦る心が、拭うことを忘れさせる。
「桜庭ロクは彼女を作った。これが、その証拠」
すっと掲げられたスマホには、ロクと小鳥を背後から撮った写真が表示されていた。
「ま、待ってくれ。それは……」
「問答無用! 雫、罪状は!?」
「リア充化」
「判決は!?」
「死刑」
「よし、執行!」
「したらダメでしょ!」
遂にロクはツッコミを入れた。
「ていうか結局、御堂がこうなった原因が分からないです」
「御堂蓮は桜庭ロクのリア充化を知り、強いショックを受けそのような姿になった」
「ああ。その写真を見た瞬間に他界したな」
「つまり桜庭ロクには、殺人という罪状も存在する。死刑は免れない」
「うう、ロク。君と過ごした一年は楽しかったよ……」
泣き真似を始めるすみれ。ただただ無表情な雫。
怒涛の勢いだった。
「最後に何か言い残すことはないか?」
「その子は彼女じゃありません。ただの後輩です」
「ほう?」
その発言を受け、すみれがキラリと眼鏡を光らせる。また、これまで動かなかった蓮の耳がぴくりと反応した。
「ただの後輩と買い物に行くと? 私は仲睦まじく話す二人の姿を目撃したのだがね」
「いや、それは……」
何と言うべきかロクは迷う。
(同居していることを言うのはまずい……そうだ!)
そして閃いた。
「彼女は僕ではなく、文芸部に興味があるんです」
「む?」
「部長には今日、一年生の女子が見学に来ることを伝えましたよね?」
「ああ。朝、君からメッセージが送られてきた。まさか……」
「そうです。彼女が今日の見学者です」
「何だと!?」
すみれは驚きに目を見開く。その様子を見たロクは、勝ったと内心でほくそ笑んだ。
「ということは私は、文芸部に興味を持ち純粋な気持ちでロクに話しかけた彼女を、あろうことかロクの恋人だと、不純な存在だと疑ってしまった……?」
「そういうことです」
「何ということだ!」
すみれは頭を抱えて自身の愚かさを反省する。
「罰を受けなければならないのは私の方ではないか」
そこまで後悔するほどのことかとロクは思った。しかしすみれのリアクションがオーバーなのはいつものこと。見ていて楽しいが少し疲れる。
「……なあ、我が盟友よ」
そしてここには、もう一人接していると疲れる人物がいた。
「それは真か?」
「本当だ」
御堂蓮だ。
「ふふ、ふふふ、ふふふふ……」
やっと蘇生したらしく、不気味な笑い声をあげながら徐々に体を起こしていく。遂に立ち上がると、高笑いをした。
「ハーハッハッハッハッハ」
大樹並みに声がうるさい。
「そうだろうと思ったぞ盟友よ! 貴様が女にうつつを抜かすような軟弱者だとは最初から思っていなかった! やはり貴様は我が最強のライバルにして最高の同胞! 女など気にせず、二人で高みへ上り詰めようではないか!!!」
「断る」
「え?」
ロクが冷徹に接すると、途端にしゅんと悲しそうな顔を浮かべた。餌をもらえなかった子犬のようだ。
「高み、目指さないの……?」
「いや、まあ……目指しても良いけど」
「そうだろうそうだろう!」
泣きそうな目で見られると、ロクには冷たくすることができない。またしても急激に蓮のテンションが上がる。
その時。
コンコン。ノックが鳴る。
「失礼します」
ドアがそっと開き、ゆっくりとノックの主が入室して来た。もちろんノックの主は、見学の予定があった小鳥遊小鳥だ。
「先輩、見学に来ました」
「ああ。ゆっくりしていってくれ」
文芸部のハイテンションに付き合い続けたロク。小鳥の静かで落ち着く雰囲気に当てられて、つい頬が緩んでしまうのだった。
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