夏の盛りに黄金のある(短編)

  てっぺんに昇った太陽が、アスファルトを灼くように地上を照らしていた。

 風は吹き、木の葉をさわさわと揺らしている。が、見た目はどれだけ爽やかだろうと、30度を超えればそよ風すらも生ぬるく温められていた。ジーワジーワと耳に届く元気すぎるセミの声が、実際の気温よりも体感温度を上げている。


 冷えた瓶を取り出した。栓抜きを当ててひねれば、ぽん、という軽い音とともに王冠が外れる。ひんやりと冷えた白いコップへ瓶を傾ける。目にも鮮やかなこがねいろが、きめ細かな泡とともに勢いよくあふれ出した。


 くびれたガラスの器が、みるみる黄金に染まっていく。うっすら透けたこがねの向こうにはまばゆい陽射しと、風に揺れてまるでキラキラと輝くような木もれ日と、それからテーブルの上に出された色とりどりの酒肴。冷えたトマトのスライスに野菜スティックとマヨネーズ、枝豆、だしまき卵、唐揚げにフライドポテトに焼き鳥、ビーフジャーキーとさきいかと……やや茶色いものが多い。カロリー計算など、美味しさの前には無力だ。

 暑さに汗が流れる。塩分補給も兼ねて、塩気のきいた枝豆を2つほど口に突っ込んだ。くびれに手をかけ持ち上げれば、ほんのりと大麦の匂いが香った。グラスを合わせれば、体感気温を下げるような涼しげな音が響く。


 ふちに口をつけて一気に煽った。口の中で踊る炭酸、舌の上でほんのり広がるホップの苦み。ごくり、ごくりと飲み下していけば、喉の奥で清涼感がはじけた。ひっかかることもなくするすると胃に落ちていくそれは、いくらでも飲めてしまいそうだった。暑さに照らされた体の中まで爽やかな風が吹くようで、思わずはぁ、とため息が漏れた。日々の積み重ねで、いつの間にか凝り固まっていた肩の力がふっと抜けていく。


 なみなみと注がれていたそれは、今や半分ほどになっていた。グラスをかざせば、明るすぎる陽光がこがねの影をテーブルに落とす。にわかに賑やかましくなってきた場は、楽しい宴の始まりを予感させていた。


 わずかに汗をかき出した瓶をひっ掴むと勢いよくグラスに注ぎこむ。黄金の波は中で跳ねて、引き波のように白く泡立っていた。

 高らかにそれを持ち上げて、言う。意図しないまま、声は飛び跳ねていた。


「乾杯!」



―——

THE TANPENS公募「ビールのある風景」に応募させて頂いた作品です。

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