第3話 夢

今まで夢を見たことがなかった。あるいは、夢を見たこと自体を忘れているだけだったのかも知れない。

けれど、今は、「夢を見た。」と断言できる。

ただ、はっきりと夢の内容を覚えているわけではない。


それでも、

どこか懐かしく感じるのは何故だろう…

そして、

いつも何かを探しているような気がする…


この出来事以降、なにかと上の空になっている。

 

どれくらいたったのだろうか

屋上の前にきて、10分はたったと思う。

私は途端にドアを開けたくなった。

ドアの向こう側に誰かいるような気がしたからだ。


ガチャッ

「誰もいなさそう…気のせいだったかな。」


初夏の香りがした。


とりあえず屋上の端まで歩いていてみる。

すると、隣のクラスが校庭で体育の授業を受けているのが見えた。その姿は小さいながらも賢明で、なんだか自分が惨めに思えてき

た。

初夏と言えど、昼間の日差しは厳しい。

額から汗が流れ落ち、そろそろ戻ろうかと思った、その瞬間だった。


「そこの君、

僕の特等席を取らないでくれないかい。」


誰もいないと思っていたのに私の背後には、

スラリと背の伸びた青年が立っていた。


私が呆然としていると、続けて


「もしかして、君もサボりなのかい?それでは僕たちお仲間だね。」と、はにかんで笑った。


私はその瞬間どこか懐かしく思えた。

何なら、私はこの笑顔を知っている。

ただ、思い出すことは出来なかった。


「あの、あなたは授業に出なくていいんですか?」と私は聞いてみた。

すると、

「まぁ、大丈夫でしょ!それに君が言えたことではなくないかい?」とまた、無邪気に笑った。


そこからは、何を話したか詳しくは覚えていない。多分、くだらないことだったのだろう。ただ、彼に名前を尋ねると少し戸惑っているようにみえた。

そして間を空けて彼は呟いた。


「僕は、夏だ。歳は君の1つ上だ。」と。


「夏」という名の割には白い肌でスラリとしている先輩。とても興味が湧いた。


「また、ここに来たら話し相手になってくれますか?」と尋ねると


「いつでもおいで」と優しく呟いた。


そして「夏」との出会いこそが、


私を大きく変えた。


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交わるはずのなかった君と私 🐬イルカ @REINA_

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