第2話 友の平手

「あっ。」

気がつくと私は屋上の前まで来ていた。

やはり最近の私はおかしい。

理由は多分…あれだろう。


遡ること2週間前…

私は、部活が終わって家に帰る途中。大通りの交差点にさしかかったところだった。


キー ドンッ


大きく鈍い音がした。その瞬間、目の前でトラックとバイクの接触事故が起きていた。

「すぐに救急車を呼んでください。」

と男性が言う頃には、野次馬も含め沢山の人が集まり、私も動こうとした。

が、


なぜだろう。


足が動かない。


息ができない。


徐々に意識が遠のいていく。


「ねぇ君、大丈夫?

って、おい君しっかり…」


ここまでが私の記憶だ。次に目が覚めると、天井が見え、側には父と母が椅子に座って心配そうにこちらを見ていた。どうやら私は、あの場で倒れて病院に運び込まれたらしい。


「澪!目が覚めたのたね。本当に良かった。」

「お母さん。お父さん。ごめんなさい。迷惑かけちゃって。」

「そんなことは、気にしなくていい。それより大丈夫なのか。」

「うん。大丈夫だよ。」

「今、先生を呼んできますね。」

と言い、母が病室から出ていった。

すると父が真剣な顔をして言った。

「何か思い出さなかったか?」と。

正直何のことかわからなかったので、

「別に何も思い出さなかったけど、それがどうかした?」

「いや、ならいいんだ。」

「そうなの?ならいいけど。」

なんだか歯切れが悪いと思いつつも、何も考えないようにした。


検査の結果、特に異常が見られなかったけれど、念のためにもう1日入院し、退院後も安静を言い渡されたので、結局、1週間も学校を休むこととなってしまった。


久々に学校へ行くと、周りに皆んなが集まってきて、

「どうしたの?1週間も休むから心配したよー。」と声を揃えて言った。


「ちょっとね。でも、もう大丈夫だから。」


そう言うと、

「そっかー。よかったー。」と言って周りが掃けて行くのが分かった。

所詮はこんなもんだ。

ただ、放課後に楓と恵理香に呼び出された。


「2人ともどうしたの?改まっちゃって。」


その時だった。


“パチンッ”


音が鳴った途端、頰に走った痛みを感じた。

恵理香だった。

「澪。あんた何考えてんの。1週間も連絡よこさないで。こっちがどれほど心配したか分かってんの?詳しいことは澪のおばさんに聞いたけど、何で1回も連絡してくれなかったの?」

こんなに怒っている恵理香を私は初めて見た。

そして、泣きながら楓が

「何で私たちを頼ってくれなかったの?そんなに私たちじゃ頼りない?」


この瞬間、私は初めて気づいた。

2人は単純に怒って、泣いているんじゃない。


悲しんでいるのだと…


「ごめん。本当にごめんなさい。」

私は誠心誠意謝った。謝り続けた。

すると楓が笑い始めた。

「澪ってば真面目すぎ。私たちは別に澪に謝って欲しかったんじゃないよ。ただもう少し頼って欲しかったの。例えば、授業のノート貸すとか、荷物届けるとか、お見舞い行くとか、色々出来たはずだから。」

「ありがとう楓。でも、ノートはいいや」と私も笑うと、

「えっうそ、何でよー?」

「楓、忘れたの?澪は、いつも学年3位以内なんだから、心配ないよ。」と恵理香も笑った。

「澪も、もう少し言い方がありますよ。

でも、配布物ぐらいは貰った方がいいと思いますよ。」

「うん、ありがたく頂戴させていただきます。」


この出来事以降、変わったことが2つある。

1つ目は、2人が前以上に私を気にかけてくれること。

2つ目は…


夢を見るようになったこと。

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