魔法少女を端からずぅっと見ていたわたし

ササガミ

魔法少女たちを端からずぅっと見ていたわたし

 わたしの住む街には、魔法少女たちが現れる。


 何をふざけたことを言っているのかって? うん。誰にも信じて貰ったことなんて無いからね、そんな返信をされるって知ってたわ。


 わたしが彼女たちの存在に気がついたのは、たぶん、年中さんのときだったと思う。

 お化けと、お姉ちゃんたちが戦っていた。

 わたしは怖くて、けれど、お姉ちゃんたちがかっこよくて、泣きながらその戦いをずっと見ていたんだ。


 魔法少女たちがお化けに勝つと、壊れた建物が綺麗に元通りになることに気がついたのは、すぐのことだった。

 戦いに巻き込まれ、たくさんいた筈の怪我人が何事も無かったように日常を送ることに気がついたのは、さらにしばらくしてからだった。


 魔法少女たち、及びその敵対する存在の顔ぶれがだいたい一年で入れ替わっていることに気がついたのは、小学校三年生くらいのときだ。その頃には、わたし以外の誰も『魔法少女』の存在に気がついていないのだと理解した。

 戦いが終わり、不思議な光の粉が空から降りそそいでしまえば、彼らは魔法少女や魔物だかお化けだかモンスターだか宇宙人だかの存在を忘れてしまう。魔法少女たちと言葉を交わし、戦いに巻き込まれ被害を受けていたとしても、だ。


 なんと、去年まで魔法少女として戦っていた少女たちでさえ、翌年になると他の住人のように、何もかもを忘れて穏やかな日常に戻っていってしまうのだ。


 小学四年生の頃になると、わたしは全てを流すことができるようになっていた。


 どうせ、わたしは近くで眺めていたって巻き込まれない。お母さんに話しても、お姉ちゃんに話しても、親友のりっちゃんでさえ信じてはくれないし、証拠だって何一つ残っちゃいない。


 全てを見て、記憶しているのはたぶん、わたしだけなのだ。


 小学六年生頃になると、面白いことに気がついた。どうも『敵』は授業を絶対に邪魔したりしてこない。授業を邪魔してくるときは、学校がターゲットになるときだけのようだ。


 そうして、わたしは中学生になった。わたしの知る魔法少女たちは皆、変身を解除したあとは中学生の制服を着ていたのだから、今年はクラスメイトの誰かが魔法少女になるのかもしれない。


 ………少なくとも、わたし以外であることは確定だ。


 わたしが通うことになる中学校には、四つの小学校から生徒が集まる。一学年は五クラス。なかなかの規模の学校だと思う。


「………ねえ、青野君と同じクラスってホント!?」


 クラス発表のあと、りっちゃんに聞かれたわたしはうなずいた。『青野君』とは、小学一年生の時に引っ越しと共に転校していき、中学入学と同時にこちらに戻ってきた同級生のことだ。久しぶりに見た青野君はかっこよくなっていて驚いた。


「うん。久しぶりだったけど、わたしのこと、覚えててくれたよ」


 ただ、わたしが一年生の頃にはまだ周囲の人間も覚えていると固く信じていた、魔法少女たちのことを蒸し返してきたのはいただけない。


「それに、桃山君に緑川君と赤石君、黄月君も同じクラスなんでしょぉ!? うらやまっ!」

「あはは、見てるだけなら幸せだよね」

「えー、なんでぇ? ういちゃんも攻めていこうよぉ!」

「やだよ、まだ見た目しかわからない子たちじゃん」


 桃山君、緑川君、赤石君、黄月君はわたしたちとは違う小学校出身者で、まぁ、休み時間に他クラスの女子生徒が無駄に遊びに来る程度には見た目が良い。


 そしてわたしの関心は今年の魔法少女が誰なのか、という一点だ。男の子を追いかけている場合なんかではない。


 その日、わたしとりっちゃんは公園を歩いていた。


 ちなみにこの公園、毎年、少女たちの入れ替わりに合わせたように、キッチンカーだったり出店だったりが入れ替わっている。出ていったほうの店は駅前商店街だったり、国道沿いだったりに新店舗を構えているので、まぁ、平和的入れ替わりだとわたしは信じている。


 今年は………とわたしは公園の、いつもの辺りをチラリと見る。今年はドーナツ屋さんらしい。


 ………と、その時『敵』が現れた! え、この時期ってまだピンクが一人で戦ってる頃!! じゃあ、りっちゃんが魔法少女に加入するの!?


「えっ………えええええーーーー!!!!きゃーーーー!!!!」


 自動販売機が飛んできた。

 りっちゃんは、悲鳴をあげつつ、逃げた。


 わたしは転んでしまい、そして、


「大丈夫!?」


 かわいい。


「………はい」


 ものすごくかわいい女の子がわたしを助けてけれた。

 ピンクの髪はツインテール、ハート型の髪飾り。ピンクと白の衣装はヒラヒラしていて、例年通りのミニスカート。彼女はわたしを見て目を見開き、それからキッと凛々しく敵を睨み付け、こう宣言した。


「女の子を巻き込むなんて………許せないっ!」


 声も、顔も、ものすごくかわいい。


 え、あんなに可愛い子、うちの学校にいた!?


 わたしは呆然としたまま、ピンクちゃんと敵との戦いを眺めていた。いつの間にか参戦していたのはブルーちゃんで、彼女もとっても可愛らしかった。


 いつも通りに敵は倒され、光の粉が空から降って来る。りっちゃんはいつも通り、何があったのかわからない様子だった。


 翌日、わたしは学校であのものすごい美少女を探したけれど、見つけることは出来なかった。


 今回の魔法少女は例年とは何かが違っていた。なんと、一年経っても入れ替わらなかったのだ!


 わたしは何度も巻き込まれ、何度も、何度もピンクちゃんに助けられた。毎回、わたしはピンクちゃんに初遭遇の振りをした。だって、それがこの街の『普通』なのだから。


 ピンクちゃんの追っかけをしているうちに、やがてわたしは受験を迎え、めでたく市内の高校に入学した。なんと、魔法少女は今年も変わらずである

 四年目に突入だなんて始めてだ。一体、魔法少女たちに何があったんだろう。


 同じ中学から来た生徒は、この高校には青野君と桃山君しかいない。りっちゃんとは残念ながら、進路が別れてしまっていた。


 そして、わたしはついに見てしまったのだ、任期四年目に入ろうという魔法少女の変身シーンを………っ!

 正確には、変身解除シーンだったけれど。


「………佐藤」

「………………桃山君、に、青野君………緑川君と赤石君、黄月君………………?」


 四年だ。

 正確には、三年とちょっと。


 その間わたしがずっと追い求め、探し続けていた超絶ミラクルスーパーキュートな美少女、ピンクちゃんの正体。それはなんと、クラスメイトの桃山君………………っ!?


「光の粉の効果が効かない人間がいるなんて聞いてないぞぉっ!」

「男の子が魔法少女になるなんて聞いてないよっ!!!!わたしのピンクちゃんを返せぇっ!!!!!!」


 その日、公園の中にある、一目を避けるのに丁度よい森林コース。


 わたしと野郎五名の叫びが重なった。


 ………それから程なく、彼らは魔法少女を引退したわけですが。


「今年の魔法少女、ちょっと変身後のキメポーズが残念かなぁ」

「………そうやってお前は俺たちの活動を毎回見ていたわけか。どおりでやたらと遭遇すると思ってたよ」

「やだなぁ緑川君、偶然だったんだって。あっ!見た!?今のピンクちゃんのジャンプ!可愛いっ!」

「あれなら俺のほうが可愛かったよね!?」

「うーん、そうだねぇ………桃山君を越えるピンクは確かに………」

「待っ、佐藤!俺は!俺はどうなんだっ!」

「青野君のブルーは………インテリ可愛いだったよね、今年のブルーちゃんはツンデレ可愛いだから別というか………」

「ういちゃん、はい、アイスあげる。あーんして」

「黄月!いつの間に『ういちゃん』呼びだと!?しかも『あーん』だとか………!」

「赤石君、黄月君はそういうキャラだよ………ね、りっちゃん」

「ういちゃん、何を言ってるのか全然わかんない。それに、そろそろこの異常事態に気づくべきだよあんたも………」


 イレギュラーな彼らはわたしと同じ、イレギュラーな存在となり、魔法少女の争いを眺める側になったのだった。だからと言って毎日毎日、五人揃ってわたしのことをつけ回すのはいい加減にやめていただきたい。今年の魔法少女を鑑賞したいのだ、わたしは。





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魔法少女を端からずぅっと見ていたわたし ササガミ @sasagami

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