0450 応報

「鳥嶋さんがね、あの時の早枝ちゃんが格好良かったって言ってたんだよ」

 

 陽は燦々さんさんと降り注いでいた。私は早枝ちゃんをからかう。

 

「もう~照れちゃうなあ~。耀ちゃんもうやめてよ~」

 

 早枝ちゃんの笑顔が見られて嬉しい。そこへ吹き抜ける野生の風が、私たちの髪をなびかせる。

 

「潮さんからは?あの時、何か言われたの?」

「それがね。あのシンポジウムの後、奇妙な事を言われたの」

「あはっ、何て?」

「君はもう、冴えない長内早枝ではないのだよ。だって……そんな話まったくしてないんだけどな……」

「あっ!思い出した!」私はあの時のことを思い出した。

「えっ?!何?」

「早枝ちゃんが病室で寝てる時、私と潮さんね、すっごくうなされてる早枝ちゃんが『おさないさえない』って、うわ言の様に言ってたの聞いたんだった……」

「もうあの人に会いたくない、私……」

 

 

 

 

 ――早枝ちゃん革命の少し後

 

「おい池浪、宮藤さんが呼んどったわ」

「編集長が?」

 私は鳥嶋さんからそう言われ、編集長を訪ねる。

「おうっ、池浪耀!君の次の任務はコレだ!って嘉多山さんからだ」

「…………」

「どうだ?やるか?」

「これって……鳥嶋さんとですよね」

 すかさず鳥嶋さんが答える。

「いーーや、俺やない。今回のお前のパートナーは親友の彼女だ」

「えっ?!でも取材費用は社員のみですよね?」

「がはっ。お前まだ使ってないやろ?那珂文舎賞のを」

「そんなもの、ありましたっけ?」

 

 

 

 

 そんなものが那珂文舎賞の副賞にはあった。50万円分の旅行券なるものが!

 

 そして私と早枝ちゃんは今、オーストラリアに来ている。

 いじめのない国の教育現場の本格的なルポタージュ取材に、早枝ちゃんには私の副賞で付き合ってもらって、あの時に約束した……

 

『大人の修学旅行』に来ている。

 

「南半球ってこんなに暑いんだね~」

「日本はもう寒いくらいなのにね~」

 そして早枝ちゃんは、どうしてもと私にお願いして一緒に来たい所があったみたいだった。

『フェザーデール・ワイルドライフ・パーク』という動物園。ここは国内でも珍しい、コアラを撫でられる(ほとんどが抱っこ禁止)動物園なのだそうで……

 

「きゃ~きゃ~、コアラちゃんモッフモフだよ~耀ちゃ~ん」

 

 早枝ちゃんは可愛い。やわらかいモノに触れてる彼女が一番しっくりくる。

 そしてこちらもワガママ言って私も付き合ってもらったのは……

『オーストラリア博物館』って施設。ここのコレクションは超ヤバいことで有名。

 

「ヒヤ~、このセルサイト……白い板状結晶デカすぎでしょ。それにマジっすか、これクロコアイトっていうか真っ赤な針状結晶のレベルがスゴ過ぎ……」

「やっぱりかたいモノが耀ちゃんには似合うよね~」

「あはは~、やっぱそうだよね~」

 

 いよいよ私たちはシドニーにある、日本の自治体と国際社会とを仲介する財団法人を訪ね、オーストラリアのいじめ対策についての学校取材に同行してもらった。

 その取材で知ったすべてが、早枝ちゃんや私にとっても、目からうろこの驚きの連続だった。それは、日本とはまったく違うレベルでの意識がにある上での活動と言った方が分かりやすい。

『Preventing and Responding to Student Bullying in Schools Policy』学校における生徒のいじめの防止と対応ポリシー。これがこの国の日本との違いのすべてだった。早枝ちゃんは終始その特徴的な取り組みに、いい意味でショックを受けているようだった。

 

「ありがとう耀ちゃん。こんな素敵な取材旅行に付き合わせてもらえて……私、何てお礼したらいいか……」

 

「いいんだよ。私、早枝ちゃんにとても大切な事をいっぱい教わったよ。私はあなたに出逢えて本当に良かった」

 

 私たちはこれからもずっと、ふたり共おばあちゃんになっても一緒にいるような気がした。

 

 

 

 

 数日後、帰国したその日に早枝ちゃんからLINEのトークメッセージが私に届いた。

 

[私は帰りにお土産を持って児相に寄りました]

 その下に写真が貼られていて……

[私のデスクの席にはコレが座ってました]

[潮さんの仕業だそうです]

 

 その写真に写っていたのは、早枝ちゃんがクレーンゲームで取れなくて悔しがっていた、着席しているチンアナゴとニシキアナゴの抱き枕だった。

 

 

 

 

 アレルギー性カテゴライズ〈柔編〉【終】

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アレルギー性カテゴライズ㊦<柔編> こみちなおり @KOMINAO

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