0438 嗜好

 あの日以来、私と耀ちゃんは毎日のようにLINEのトークでおしゃべりしている。

 その日の出来事や美味しかったもの、仕事の楽しさや不満なんかも言い合ったりした。耀ちゃんの職場の先輩が、面倒くさがり屋の男性で困ってると聞いたので、私の職場の心理士の男性も、随分な変人で困ってると教えてあげると『すごくわかる』と言ってくれた。

 私たちは日が経つごとに益々仲良くなっていった。

 

 ブーブブッ。

 耀ちゃんからLINEがきました。

 

[早枝ちゃんもう着いてるかな]

[ついてるよ~]

[わたしも~]

[耀ちゃんどこでしょう?]

[ここ、ここだよっ]

 私は周りを見渡した。少し人が多くて耀ちゃんが見付かりません。

[見付からないよ~]

 

 私はスマホの画面に見入っていた。

「早枝ちゃんみーっけたっ」ハグ~っと後ろから抱き締められた。耀ちゃんだった。

「あはっ。びっくりした~」

 

 上野公園のソメイヨシノは満開だった。きっと袴腰はかまごしあたりは、その圧巻の迫力にむせぶような壮麗さを魅せていることでしょう。

 4月に入れば花粉も徐々に少なくなってくる頃だからと、私と耀ちゃんは一緒にお出掛けすることになった。

 春日和のこの日は、太陽が眩しいくらいだった。私は待ち合わせ場所の『シロナガスクジラの巨大模型』の陰で眩しさから隠れて、耀ちゃんを待っていた。

 

「遠くから見たら、早枝ちゃんがクジラに襲われてるように見えたよ」

「やめてよ~耀ちゃん」

 

 その向こうには蒸気機関車のデコイチも屋外展示されている。

 そう、ここは上野の『国立科学博物館』。私たちは今日、ともに平日の休暇をシンクロさせ、満を持してココにやってきました。

 国立科学博物館については、ふたりの意見は即答で合致しました。きっと趣味が合うのだとお互いにワクワクが止まりません。

 

 そんなふたりでも、私は『地球館』が大好き。耀ちゃんは『日本館』が大好きなのだと教えてくれた。その中でも、耀ちゃんのテンションがどこか高めだったのは、3階南翼の『日本列島の素顔』に訪れた時だった。

「えっ!青い胆礬たんばんがある……。それにこのりゅうマンガンこう、ピンクだよ。ヤバい、グリーンのはいクロム石榴石ざくろいしってマグマじゃん……」

「詳しいんだね。耀ちゃん……」

「あっ!いやっ!全然詳しくない……よ。そこまで石オタクじゃないよ。嫌でしょ女で石オタクだなんて。えへへ~」

 耀ちゃんは綺麗な石が好きなのかな。私にもくれたブルーサンドストーンも……。素敵な趣味だと思ったけど、耀ちゃんはさりげなく誤魔化していて可愛かった。

 そして私のお待ちかね『地球館』3階、『大地を駆ける生命』の展示コーナーです。そこにはモッフモフ哺乳類たちの剥製がズラリ、すっごく触りたーい気持ちになります。

「やーん、このリスザルたち抱っこしたーい。やっぱりネコ科はユキヒョウでも可愛いですよね……」

「早枝ちゃん、動物好きなんだね!」

「えっ!あっ、そ、そうかもな~。可愛いよね~動物たち。あはは~」

 なんだか恥ずかしかった……。モフモフ全般が好きで仕方ないだなんて、心配でした。

 

「すっごく楽しかった~」

 耀ちゃんの笑顔が可愛くて、私まで幸せになります。

 私たちは公園内のスタバで一緒に選んだフラペチーノをザクザクしながら、公園内にある『パンダ模様の郵便ポスト』の前で、白と黒の愛くるしさを堪能していた。

「大人の修学旅行みたいで素敵だったね~」私は何気なく言った。

「それいい、早枝ちゃんと修学旅行に遠出したい!」耀ちゃんは本気だった。

「嬉しいな。あったかい時季に行こうね」

 私たちは約束した。

 

「そうだ、赤心の家に寄っていかない?」耀ちゃんが突然そう言った。

「いいの?耀ちゃんから離れるよ?」私は心配した。

「ええ~。じゃあ、早枝ちゃんに泊めてもらおうかなあ」

「ええっ!!いいけど……」もふもふどりーむわーるどに引かれないか心配した。

 

 ともあれ私たちは、赤心の家に顔を出すことにした。耀ちゃんと駅から少し歩く道のりが、通学路を一緒に帰る親友との時間のような気がしてキュンとした。

 

「あ……、あれ?」

 耀ちゃんが立ち止まった。

「ん?どしたの?」

 私は耀ちゃんの視線の先を目で辿たどった。

 遠くの方に制服姿のあの子……、赤心の家の、えっと……小川おがわ奈菜実ななみさんが、お友達と歩いて行く姿が見えた。

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