0437 憧憬
「もしよかったら、もらっていただけますか?」
彼女の瞳はやや赤み掛かった茶色をしていた。その美しい瞳は私を見て、その手には青く輝く宝石を差し出していた。
「い、いえっ、そんな高価そうなもの、いただけません!」
本当にそんな、私なんかに……。
「あははっ、高価だなんて。私、駄菓子屋のおばちゃんなんで!」
「???」――まったく意味がわかりませんでした。
「はい。どうぞ」
「えっ、あっ、ありがとうございます」
「ボクはね、お医者さんになるよ」
――開くんのそのつぶらな瞳はパッと輝いて、自分の将来の夢を語っていた。
「へええ、きっとなれるよ。はい、ブルーサンドストーンだよ」
「ありがとう。ボクうれしい」
開くんが笑った。私もうれしい……。
いけなみさんに綺麗な青い石をもらった子どもたちは、それを光に透かしたりして遊んでいた。
「施設の方、ですか?」
彼女の声が私に呼び掛ける。
「いえ、こちらでお世話になっている担当のお子さんに会いに来た、児童相談所の職員なんです、私」
「へえっ、福祉のお仕事?」
「児童福祉司といいます。今は、児童心理司も目指しています」
「素敵なお仕事ですね……」
私は彼女のその聡明な澄んだ瞳で見つめられると、
「いけなみさんは……出版社って、さっき……」
「えっ!あっ、私にもお名前教えてください!」
私たちは名刺交換した。それはサラリーマン同士がペコペコし合いながらお互いの名刺を渡し合うよくある光景だった。
「
「
「早枝ちゃんって呼んでもいい?」
「えっ?!」
私は驚きも思わず声に出してしまった。だって初めてたった今しがた出会ったばかりの私がこんなに親しくされた経験はなかったからです。
「う、うん。いいです」
「よかったー」
「じゃあ」
「ん?」
「耀ちゃんって呼んでもいいですか?」
「うんうん、嬉しい。早枝ちゃんは……」
「え?」
「お日さまみたいな人だね。ほんのりあったかいカンジ」
同じことを言っていた町田所長の言葉を思い出した。お日さまみたいだなんて……そんな。
「あ、ありがとう」
私たちは急激に惹かれ合うように、その場で話し込んだ。それはきっと、とても短い時間だったはずなのに、グッと近く親しい友人と話し込んだように感じた。まるでずっと前から知り合いだったような。
そして私たちは同い年だった。しかもふたりとも花粉症だった……。とにかくその場で意気投合だなんて、私の人生で初体験だった。私たちはスマホをふるふるさせてLINE交換も済ませた。耀ちゃんのスマホは石みたいだった。
「連絡するね、早枝ちゃん」
「じゃあまたね、耀ちゃん」
何とも言えない気持ちだった。もっと話がしたい。この私の感情は
「知り合いだったのか?」
「潮さん、どこ行ってたんですか」
「野菜農家のご夫婦がいらしてて、無農薬野菜の栽培方法を伝授していただいていたのだよ」
「伝授されていつ発揮するんですかソレ」
「まったくもって、
「彼女は今しがた知り合った親友です」
「今……そうか」
施設をあとにする門の手前で、私の左袖に来客があった。
「てんとう虫ですね」
来客は赤くて黒の七つ星を持った可愛い昆虫でした。
「てんとう虫の名前の由来は、お
「そうなんですね。ふふふ」
神様のお
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