第2話彼と彼女の始まり

「それで?どうやってこっから脱出するんだ?」


向かい合うように床へ座りながら今後の方針について考え始めた。


「……先輩……一ついい考えがあります」


考える素振りを見せ、真剣な眼差しで誠人の瞳を見つめる。すると誠人は美女に見つめられ頬を赤らめた。美女にみつめられて頬を赤らめない者はいるだろうか。もしいるのなら是非お目に掛かってみたいものだ。十分後。


「……おい?姫野。これのどこがいい考えなんだ?」


怒っているのか笑っているのか。顔には笑顔を浮かべながら眉をぴくつかせる。


「んー!せんぱぁーい!」


説明しよう。現在二人はシングルサイズの誠人のベッドに横たわっている。誠人自身は苛立ちを感じ始め、寧音はというと、誠人の腕に顔をスリスリと擦り付けている。


「……いい加減に……しろぉぉぉ!!」


「あぶっ!」


とうとう堪忍袋の緒が切れたか。寧音の頭に渾身の一撃を入れた。


「先輩!酷いですよぉ」


「なぜこうなった」


指をポキポキならしながら満面の笑みで訊く。


「先輩。時計を見てください」


――時計の針は午後四時三十分を示していた。


「それがどうした?」


「今から脱出を始めても危ないです。普通このような状況に陥った時は夜間に行動するのが王道ですが、今回ばかりはそうはいきません」


ベッドの上に正座しながら語る。確かに。寧音の言うことも一理ある。夜間は視界が悪く、足場何てもっと悪い。穴が開いているかもしれないし、なにかの破片があるかも。ここは朝市に行くべきか。手を顎に置き考える。


「わかった。今のうちに準備を始める。姫野は寝とけ……どうした?」


視線を寧音に向けると頬を赤らめながらもじもじしている姿があった。


「トイレならこの部屋を出た右にあるぞ?」


「違います!!」


まったく。デリカシーがない男とはこのような人を示すんだろうか。


「先輩……姫野じゃなくて……名前で呼んでください……」


照れ臭そうに静かに告げる。


「はい?」


突然の告白につい頓狂な声を漏らす。


「だから!寧音と呼んでくださいっていってるんです!!恥ずかしいから二度も言わせないでください」


「あ、あぁ。え、えーと……寧音今は体を休めとけ……」


頬を掻きながらこちらも照れ臭そうに言う。


「はい!」


誠人は恐る恐る自室を出て、リビングへ向かう。床はテレビの液晶や食器類が落ちその破片がそこら中に転がっている。とても危ない。シンクしたにある戸棚を開け、包丁を数本取り出す。そして電機の通っていない冷蔵庫を開け、飲み物を数本と冷凍庫からアイスを二本取り出し自室へ戻った。


「ほれ」


手に持ったアイスを寧音に投げるように渡す。


「これは……?」


「見ればわかるだろ。アイスだ」


誠人が寧音に渡したアイス。それは苺味いちごあじの棒アイスだった。ちなみに誠人はチョコミント。寧音はアイスの梱包を取り、一口ぱくりとアイスを食べた。すると――!。


「んんー!!おいひぃ!!」


あまりのおいしさにほっぺを落としながらそう呟く(イメージ)。


「それはなによりだ」


誠人もアイス開封し、口に突っ込む。そして準備を開始する。リュックには布切れを巻き付けた包丁数本とペットボトル数本。そしてカロリーマイト数箱。懐中電灯に単三電池十本。極めつけにはスマホを放り込む。


「ん゛ッ!?」


「どうした!?」


突然何かを詰まらせたみたいな素振りを寧音が見せる。


「あ、頭がぁぁあああ!!」


「あはは。そんなことか……」


苦笑しながら軽く流す。どうやら苺アイスを頬張っていたら頭がキーンと頭痛のような症状に襲われただけらしい。


「それじゃあ明日は朝市でこのマンションを出るぞ?」


「はいっ!」


「おやすみ」


「おやすみなさい!」


寧音は誠人のベッドに、誠人は床で寝る。次の日の朝。何かに触れ、目を覚ます。何かを手探りで触っていると突然――ッ!。


「んっ!先輩……んぁ……んっ!」


聞き覚えのある女の子の甘い声が聞こえてきた。


「ん!?」


それに一気に目が覚め、頭が覚醒する。すると――。

「先輩……」


顔を真っ赤に染めながら首だけをこちらに向けている寧音の姿があった。現在二人の格好はこうだ。誠人は右向きに横たわり、そこへ寧音が誠人に抱かれるようにして眠っている。そんなところに誠人の手が寧音の〝ない胸〟に触れ、揉んだという。〝これぞまさにラッキースケベ〟


「あ……あ゛ぁぁぁあああ!!なにやってんだおまえ!!」


瞬時のその場から飛び起き、まさかの逆切れ。いやぁ、ねぇ。わざとじゃないとしてもそこは謝る雰囲気だよねぇ。


「よ、夜寝てたら先輩に襲われてそれで……あうッ!!」


嘘を言い一発拳骨をくらう。


「真面目に言えないのか……お前は」


もはやこれは呆れるしかない。


「先輩……」


頬を赤くしながら呼ぶ。


「なんだ?」


「そ、その……柔らかかったですか……?」


「は?」


予想外の言葉に思わず頓狂な声を漏らす。



「だ、だから……わたしの胸柔らかかったですかって聞いてます!!」


「…………」


なんて返答に困る質問なんだ。そんなことを思いながら言葉を詰まらせていると――。


「正直に答えてください!正直わたしの胸柔らかかったですか?感触はどうで下か?」


「……寧音……悪いんだがよくわからなかった」


「えッ!?」


「正直ブラの感触ばかりであまり柔らかくはなかった……」


あれ?俺。なに言ってんだろ。急に自分が口にしている言葉が阿保らしく感じてきた。


「先輩!!」


「はい」


やばい。怒られる。そう覚悟したのも束の間。


「ブラジャー外すんでもう一回触ってください!!」


あれ?思ってたんと違う。


「ふぇ!?」


頓狂な声を漏らす。


「なに阿保なこと言ってんだお前!?」


「わたしさっき先輩にブラの上から乳首までいかれたんです!それなのに分からなかったじゃ納得いきません!」


「ちょ、ちょっと待て!!寧音さん?ブラ外さないでもらえるかな?寧音さん?寧音さん!?」


そんなこんなで争う事およそ三十分。時計を見ると六時四十五分を回っていた。


「寧音。行くぞ」


「はい!」


そして二人は強盗に荒らされたかのような部屋を後にした。玄関のドアをなるべく音をたてないようにそおっと閉める。


「寧音。これ……まずくね?」


「まずいですね……これ……」


階段から降りようと目論んだが、見事なまでに途中で原型を留めていないほどに崩壊していた。現在の階層六階。電機も通っていないためエレベーターも使えない。


「よし。取り敢えず行くぞ」


だがその時は突然起こった。左角から足音がする。前は行き止まり。後ろも行き止まり。どんどん足音が大きくなっていく。こちらに近づいている証拠だ。


「やばいな……おい?何をする気だ?」


ふと、寧音の方へ視線をやる。すると両手でよく削られた木刀を構えている寧音の姿があった。


「先輩。待っててください。今わたしが――あぶっ!何するんですか先輩!」


阿保なことを言う後輩(寧音)に拳骨を入れた。


「お前は馬鹿か」


「せ、先輩よりかは頭がいいですし!」


「ほう?お前学年何位だ?」


「もちろん最下位に決まってるじゃないですか」


当たり前のように言う寧音を見て思った。あぁ、こいつやっぱ馬鹿だ。


「――ッ!」


「わたし先輩よりかは頭いいですよね?ね?」


「おい……おま――」


「だって先輩学校行ってないんですよね?」


「お前……おい――」


「そうですよね!先輩馬鹿ですよね」


「……いい加減こっちを見ろ!!」


そうやって寧音の顔を強制的に前方に向ける。


「せ……先輩……?」


「あぁ。まずいな……」


前方には、はっきりとした容姿は分からないが背丈三メートル近い黒い影がこちらを直視していた。

――その黒い影はゆっくりだが確実にこちらに迫ってきている。


「先輩!!」


両手で木刀を構える。そして誠人は何かに気が付いた。あれ?足が震えてね?と。そう。寧音は現在進行形で迫る恐怖に足を震わせていたのだ。


「おい!取り敢えずこっちにこい!!」


寧音の手を強引に引き、同じ感覚で並ぶ部屋のドアを次々と引いて行った。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。すべて試したが開くドアは一つもなかった。影Xとの距離は僅か三メートル。すると誠人は意を決したのか寧音をお姫様抱っこした。


「ひゃい!!」


急に抱っこされたことにより変な声を漏らす。そして――。


「先輩?何する気ですか?まさか飛び降りるなんてことしないですよね?先輩?」


誠人は人が不意に落ちないための柵(?)を見つめている。


「寧音。しっかり掴まっていろよ」


「先輩?先輩いくら何でもそこまで馬鹿じゃな――ぎやぁああああああああああああああッ――!!」


寧音の言葉を遮るようにして柵から飛び降りた。現在二人が飛び降りた階層は6階。地上から軽く十六メートルある。二人は臓器が浮く感覚に陥る。


「先輩のバカぁあああああああああああああああああ――ッ!!」


残り地面まで五メートルを切ったところで誠人は寧音を上にして庇うように自身の体を下にした。そこで誠人の意識は途絶する。どのくらい時が経過したのだろうか。何か柔らかい感触が頭の下にある気がする。何の感触だか確かめるべく試しに頭を動かしてみた。すると――。


「ひゃッ!んっ!」


頭の上からなにやら少女の甘い声が耳小骨じしょうこつを振動させた。


「え?」


そこでようやく目を覚ます。どうやら膝枕をされていたらしい。少女は恥ずかしいのか頬を赤らめている。


「うぇっ!?」


頓狂な声を漏らし、脳が状況を理解したのか飛び起きる。ふと少女の方へ視線をやると――。


「先輩……そういうことはあといっぱいしてあげますから今は我慢していてください……」


とわけのわからないことを口にする。そして一発――。


「あふっ!」


拳骨を入れた。


「あーぁ。せっかく人がお礼と謝罪をしようとしてたのになぁー。気が変わった」


もはやこの少女の扱いには慣れたもんである。


「まぁ。なんだ。一応言っとくが……ありがとな。一応だが……」


大切なことなので二回言ったみたいなノリで呟くと寧音は、


「一応ってなんですか!?一応って!!」


怒っているのか声を張り上げる。


「それでここはどこだ?」


「無視ですか!?……ここは軍のトラックの中です。先ほど先輩が気を失っていたからここへ運びました。偉いでしょ?褒めてください。今ならキスで我慢しますよ?」


「あぶっ!」


「ほんと一言余計だよな。そんなんじゃ何時まで経っても俺を惚れさせることは難しそうだな……」


「な!?先輩は絶対にわたしに夢中になります!いや、なりさせます!!」


「へいへい。頑張ってくださいねぇ」


「あッ!先輩信じてないでしょ!!!この馬鹿低能ロリコン変態えっち童貞先輩!!!」


「おい?ロリコンは認めるがそのほかは認めてないぞ?ビッチめ!!」


満面の笑みで指をポキポキさせながらそう言うと、


「なな!?ビッチじゃないし!!処女だし!!いいもーん!先輩にはわたしの初あげないもーん!」


子供の如く不貞腐れる寧音。そんな寧音に鼻で笑いさらなる言葉を放つ。


「はッ!誰がお前の処女なんて貰うか!そもそも処女かどうかもこのビッチ怪しいな……俺は新しいロリ娘を探しますからあなたは邪魔しないでくださいねぇー」


こちらも子供の口喧嘩のような反応をとる。どんぐりの背比べとはこのことを指すのだろうか。



そんなこんなで何の進展もないまま一日は幕を閉じる。

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彼と彼女の最後の戦争 影乃サラ/ロリ好き作家 @KagenoSara-rorizuki

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