僕が僕を追い越す日
その出来事があってから君への想いは溢れ出して止まらなくなってしまっていた。
ある日、教室掃除当番が延びてちょっと帰りが遅くなってしまった日。
下駄箱に降りると一人で帰る途中の君がいた。
僕はいつも通り、君の背中を見ながら帰るものだと思っていた。
でもその日は違った。
気がつくと君を追いかけていた。
これが、「心が僕を追い越す」と言うことだった。
何か考えるより前に、君に言わなくちゃいけないと僕自身が君まで引き寄せる。
いつも遠くから見ていた背中が近づく。
5メートル・・・3メートル・・・1メートル。
ついに彼女のシャツの袖をキュッと掴んで話しかけていた。
「あのっ・・・・!」
彼女は当然びっくりした顔で振り向いた。
驚いて当然だろう。告白するまで君に話しかけたことはなかったのだから。
こんな告白の仕方は誰に聞いても無茶だと言うだろう。
「好きですっ」
君は目を見開いて僕を見つめた。
「えっ、えっと・・・」
いつも遠くから見ていた君がそばにいる。
僕の目の前で、その焦りと困惑が混ざったような瞳に僕だけが写っている。
君の頭は僕のことでいっぱいで、混乱しているのだろう。
それがちょっぴり嬉しかった。
「もし良ければ・・・付き合ってください」
困らせている。そんなことはわかっている。
でも、言わずにはいられなかった。
「あの・・・じゃあ、お友達からってことで・・・」
僕は当然、ふられてしまった。
それから「僕が好きだってこと、知ってた?」
「うん、、、でも嘘だと思ってた。揶揄われてるんだって思ってたよ」
と君が笑って話してくれた。
僕と君は帰り道が真逆だったから、その後はすぐに別れてしまった。
振られた、わかった後でも特に悲しくはなかった。
それよりも君に思いを伝えられたこと、君と話せたことが嬉しかった。
だけど次の日、事件が起きた。
「おはよう」
今まで交わせなかった挨拶を初めてすることができた。
僕はホームルームが始まるまで廊下で友達と集まるのが日課だったから、その日もいつも通り廊下にでてダラダラと喋っていた。
その時、後ろから突然君が現れて
「ちょっといいかな」
と僕を廊下の端っこに呼び出した。
僕は訳が分からなくてすごく混乱していた。
君はそんな僕に
「突然ごめんね。・・・・あの・・さ・・。昨日の事なんだけど、一日ずっと考えてたの。
そしたらやっぱり“僕“君とお付き合いしたいなって・・・ダメかな」
と言い放った。
僕は咄嗟に
「よろしくお願いします」
と言った。
教室に帰った僕はにやけが止まらなくて、ちょっぴり困った。
でも、あの瞬間が僕の生きてきた人生で一番幸せだったかもしれない。
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