第91話
こうして、桃里くんの意識は眠ったまま、新しい桃里くん(桃里くん②)が一応仲間になった。
いずれ元の桃里くんの意識を戻すことも考えるけど、今は問題解決のために協力してもらう。心苦しいけど...
それまで身体も動かせず、眼も見えなかった桃里くんの身体はすべての面で健康体に生まれ変わっていた。
色々調べさせてもらうと、武蔵並の視力、茉莉と同じくらいの筋力と瞬発力、果歩の読心能力、そして静の魂を見る力のすべてを持っていることが分かった。
もしかして、僕ら徳永チルドレンは、あの赤い魂の潜在能力の一部しか使えておらず、本来は桃里くん②が完成形なのかもしれない。
ただし、僕と同じソマチットと感応する能力はないみたいだった。
そういう意味では、僕の方が特殊な存在なのかもしれないな。
果歩と同じ人の心を読む能力があれば、これから生まれてくる子どもたちの「使命」を知ることができるはずだけど、桃里くん②は協力してくれるだろうか。
今僕たちが解決したい問題は3つ、
1.地球環境を元に戻して、人間だけじゃなく様々な生物が生きられる持続可能な世界にする。
2.これから生まれてくる子どもに宿る魂が持つ「使命」を明らかにして、問題のある「使命」であれば、キャンセルさせる方法を見つける。
3.神とも思える他宇宙の存在から、僕らの宇宙への干渉をさせなくする。
これらを全部対応しないと、僕らはゆっくり絶滅に向かうことになる。
桃里くん②は父さん②とすぐに打ち解けたようだ。
生きる目的が同じで、一時は地球を破壊することも厭わなかった父さん②と恐らく僕たちの考えが及ばないレベルで物事を考えている桃里くん②だから、とんでもない方法を考えてくれている気がする。
ただ、父さん②はエマとイーサンが普通の人になったことで、彼らがこの先生き延びられるように、地球に月をぶつけて破壊しようなんていう無茶な考えはしないようになったようだ。
この二人に玲奈さんと時子さんも加わって、あらゆる対応策を検討していた。
そして、静は玲奈さんと一緒にダークエネルギーの研究を進めていた。
【玲奈】
さて、地球環境改善の目処は秀くんが考案した機器を世界中に配備することで何とかなりそうだと、時子ちゃんのシミュレーションでも確認できた。
後は静ちゃんと取り組んでるダークエネルギーの検知と干渉が何とかなれば、取り敢えず別宇宙の存在からの干渉は止められるはず。
ダークエネルギーはこの宇宙の重力に影響を及ぼすものの、その存在は検知できずにいた。
重力は、まだ発見されていない、理論上の素粒子である重力子が媒介しているとされている。
これを見つけることができれば、ダークエネルギーにも干渉して魂への干渉を抑えることができるはず。
そんな仮定のもと、重力子の発見を目指して実験を続けていた。
この宇宙には、4つの力があると言われている。
強い力、電磁力、弱い力、重力の4つだ。
重力以外は力を伝達する素粒子が既に見つかっている。
強い力は中間子とグルーオン、電磁力は光子、弱い力はW+,W-ボソン、Zボソンのやり取りによって力が生じる。
これらと同じように重力を伝達すると考えられているのが重力子だが、まだ見つかっていない。
ダークエネルギーが別の宇宙ともやり取りができるということは、重力子が異なる宇宙間を飛び越えられる性質を持っているということ、かもしれない。
静ちゃんは超ひも理論を応用して、10次元のコンパクト化の方から探っていて、重力子が具現化する条件を編み出そうとしている。
静ちゃんの特殊能力は魂を見ることができるということだけど、恐らくダークエネルギーか重力子を視覚として脳が捉えられているということ。
徳永チルドレンが持っている特殊な視床下部、この器官が次元を超越する程の何かを持っているのだろうか。
絶対零度でも物質が振動するという、余剰エネルギーが重力子によってもたらされている、その瞬間別宇宙への扉が開いているんじゃないかって...私も今一分からないのよね。
これは、また瑞希くんのソマチットさまにインタビューするしかないんじゃないかしら。
それと、桃里くん②も、恐らく相当頭はキレるはずだから、うまく使えば解が得られるかも。
ということで、まずは瑞希くんを呼んでソマチットさまにインタビューをすることにした。
「瑞希くん、また前と同じ要領でぐっすり眠ってもらえるかしら」
「実は、最近ソマチットが全然出てこないんですよ」
「え?そうなの?何でかしら」
「僕的には桃里くんが原因じゃないかって思ってるんですけど」
「桃里くんと会ってから出てこないってこと?」
「はい。ちょうど会った頃からだと思うんです」
ソマチットさまは確か人間の魂にアクセスできるはず。
魂の融合を果たした桃里くんの魂は、静ちゃんから明るい紫色に光り輝いていると聞いた。
何らかの影響があってもおかしくはないわね。
ま、いいわ。
「分かった。今日はソマチットに会えないかもしれないけど、試させてもらってもいい?」
「はい。それは構いません」
前回と同じように睡眠導入音声を流すと、瑞希くんはすぐに眠りに着いた。
さすがだわ!
今回は大それた測定器はなく、マイクとスピーカのみで話をする。
「お!スゴい早さで眠りに着いたな!」
「桃里くん!なぜキミがここにいるの?!」
「重力子の観測に俺様の天才的頭脳が必要かと思ってな」
確かに桃里くん②の考えも聞きたいところだけど、ソマチットが出てこない理由が桃里くんだったら...
「おいソマチット!隠れてないで出てこい!」
えー!?そんな攻撃的に呼んだら...
『玲奈様、なぜこの下品な男を呼び覚ましてしまったのですか?』
「え?ソマチットさま?桃里くんと知り合いなの?」
『この男は我々と同類。こちら側の存在です』
「え?もしかしてソマチットさまがいる別の宇宙ってこと?」
『左様』
え?それなら、桃里くん②はあちらの宇宙からこちらの宇宙にダークエネルギーを使って思念を送れてるってことよね?
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