第92話
「お前さんの想像通り、ダークエネルギーを使って、次元の隙間から、ここにある魂にアクセスしている」
と、桃里くん②は自分の胸を親指で小突いた。
「次元の隙間?」
「なぜダークエネルギーも重力子もこの宇宙で観測できないのか。それはその実体が、この宇宙が存在している時空と次元がずれたところにあるからだ」
次元...
「とは言え、その次元もこの宇宙の派生のひとつだから、空間の広さや座標は共通している。こちらの宇宙からそちらの宇宙に直接アクセスすることはできないが、この派生宇宙の次元を挟んでならダークエネルギーを介してアクセスできるのだよ」
なるほど。
ということは、その次元の隙間とやらをこちら側から塞いでしまえば、向こうからの干渉は不可能になるのね?
でも、
「そこまで知っているのなら、なぜ早く教えてくれなかったの?」
「まあ、そりゃ、せっかくこの宇宙で実体を持ったから、もう少し味わいたいかなーと思ってな」
はっ!
そうか、ダークエネルギーの干渉をできなくすると桃里くん②もこちらの宇宙には居られなくなるのか...
なんかかわいいー!子どもみたい。何十億年も存在していた意識体のはずなのに。
『私も王にお会いできなくなります...』
そっか、ソマチットさまもかー。
それは瑞希くんが悲しむだろうな...
でも、これを解決しないと、どっちみち皆滅んでしまうのよね。
ここは心を鬼にして、
「さあ、二人とも次元の隙間を塞ぐ方法を教えなさい!」
「プギッ」
こうして、桃里くん②とソマチットさまから次元の隙間を塞ぐ手順を教えてもらったものの、ホントにそんなことが可能なのか疑いたくなるような手順だった。
その手順とは、ランダムに現れる次元の隙間を瞬時に検出して、何らかの方法で塞ぐというものだけど、その範囲は人間の魂が浮遊しているとされる月の周回軌道内、半径384,400kmの円の内側で、面積としては4,640万km2という途方もない広さ。しかもそれを延々と繰り返し続けなければならないという。
次元の隙間が生じる際には微弱な重力波が出るらしい(桃里くん②情報)から、それを検出すればいいんだけど、重力波の検出には、通常KAGRAやLIGOのような巨大なレーザー干渉計が必要になる。
例えばKAGRAは日本の神岡鉱山跡に設置されていて、一辺が3kmのL字型の施設。
3kmの真空にした管にレーザー光を通し、鏡で反射されて戻って来た光とハーフミラーで直角に曲げて戻って来た光の干渉を観測して、時空の歪みを検出する。
当初、感度が低すぎてまともな観測ができなかったKAGRAは、数次のアップデートを重ねて、漸く銀河系内外のブラックホール連星の衝突を検出できる感度を達成した。
そして、次元の隙間の位置を特定するには最低でも2基のレーザー干渉計の同時運用が必要になるということで、ま、ちょっとムリかなーと感じる話なのだ。
他に重力波を検出する方法は...
一旦、「地球防衛隊(仮称)」に持ち帰って皆と相談してみよう。
「瑞希くん、起きて」
zzz...
もう、この子はホントに、眠ることにかけては人類トップクラスよね...
こうして、徳永チルドレンや秀くんたちを集めて、次元の隙間の話とそれを塞ぐ手順を話してみた。
「重力波なら、俺が作った局所重力レンズ望遠鏡で検出できるぞ」
秀くん②が事も無げに言う。
え?そうなの?じゃ行けるのかしら?
「でもなあ、月の軌道半径内を常に監視するとなると、単純計算しても、地球を周回する衛星65,536基と、月を周回する衛星4,096基を配置して、それに局所重力レンズ望遠鏡を搭載して統合管理し続けなきゃならん。不可能とは言わんが、製造、管理コストも含めて、相当なハードルになるぞ」
そうよね、やっぱりムリか...
「次元の隙間とやらの出現場所は、本当にランダムなのかな?何らかの規則性を掴めれば、観測は不要になるんじゃない?」
静ちゃん(秀くん①+③)がこんな仮説を唱えた。
確かに出現場所を確実に予測できれば、観測はしなくてもよくなる。
「KAGRAとLIGOの共同運用で次元の隙間の出現位置を観測して、規則性を探ってみようか。規則性は時子が推測してくれ」
鍊くんが提案してくれたけど。
「LIGOはアメリカで雪の中だ。まともに運用するには、相当な整備が必要になるぞ」
そうなのよね。アメリカの施設はほとんどがストップしてるはず。
「そこは僕らに任せてくれないか?」
イーサンが何か策を持っているらしい。
「僕らを模したχ超級アンドロイドが合計12機運用可能だから、それらを使えばLIGOの運用はできるはずだ」
χ超級ということは、時子ちゃんと同レベルの深層思考、推測、計算能力を持っているということになる。
イーサンとエマは元々特殊能力は持っていなかったものの、超人的な頭脳を持っていた。
時子ちゃんに蘇生された後、「地球をキレイに」という使命は薄れたものの、頭脳の方はほとんど衰えなかったらしい。
さて、後は次元の隙間を塞ぐ方法とやらだけど。
そもそも次元の違う世界が、なぜこの世界と繋がる瞬間が生まれるのか。
「次元のコンパクト化を調べてきて分かったことなんだけど」
静ちゃんが何か掴んだ?
「次元の上がり方は整数単位しかないと思ってたけど、どうも不連続的に上がるみたいなんだよね。例えば3.5次元とか」
え?そうなの?それは新説だわ。
普通、その次元の影が一つ下の次元に対応しているから、例えば、3次元の影が2次元(平面)に、3次元に時間を加えた4次元の影が3次元(立体)になるから、3.5次元などという概念は考えられないと思ってたけど、次元の隙間という名前からも、整数次元ではなさそうな気配はするわね。
「それでね。例のマイクロソフトブラックホールが使えそうな気がしてるんだよね」
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