第90話
「桃里くん、ありがとう。早速だけど、魂の融合の準備をしてもいいかな?」
多分、隊長の鍊という人が話し掛けてきた。
「あ、はい。どうすればいいんでしょうか?」
「まずこれを首に着けてもらえる?」
触った感じ、金属でできた輪のような物を渡された。
「これは?」
「ちょっと言いにくいんだが、もしキミが私たちの手に負えない程の力を持っていて、何かあった場合、キミを動けなくするための装置だ」
ギク。
それはちょっと嫌だなあ。
「僕は元々動けないですし、そんなものは要らないと思いますけど」
「いや、魂の融合は何が起こるか想像が付かない。危害を加える訳ではなく、キミの安全のためにも一時的に神経を麻痺させるだけだから」
うーん、ホントかなあ。
「そのチョーカーは、随意神経に作用して、君が動かそうとする筋肉への命令をキャンセルさせる装置だよ。自律神経には影響しないから、生命維持には影響しない」
僕の心配を見透かしたように假屋崎さんが説明してくれた。
まあ、確かに僕の精神がなくなってしまったら何が起きるか分からないし、こういう保険は必要かもしれない。
「分かりました。皆さんを信じます」
輪のロックを外してもらい、首に着けた。
パチ!キシュ
首にピタリと貼り付いた。
やっぱりちょっと怖いなぁ。
「ではこちらへ」
女性の声が移動を促す。
「申し遅れました。私は時子・ジ・アンドロイドと申します。徳永氏に作られたアンドロイドです」
アンドロイドって、この人、人間のような雰囲気を感じる。
小さな部屋のような感じがする場所に連れてこられた。
「では、早速ですが、魂の融合を試して行きます」
そう言われて、何かが胸に当てられた。
「これは魂を体内に取り込むための媒体です」
キュ。プシ!
隣で何か容器の蓋が開けられるような音がして、
「やっぱり、魂が動き出した!」
假屋崎さんの声。やっぱり?
確信があった訳じゃないのね?
「今、胸に入り始めた」
んー、特に何も感じないな。
「半分くらい入った」
まだ何も感じない。これは、何も起きないかも。
「後、10cm。今全部入った。うわ!」
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【瑞希】
静が叫んだ途端、桃里くんが立ち上がった。
立てないはずなのに!
何かまずいことが起きてる?!
「おお!やっと身体に入れたゼ」
桃里くんは自分の手を見ながら、今までと全く違う口調でしゃべった。あれ?眼も見えてるのか?!
「皆の衆、ご苦労。俺様が来たからには、ちゃちゃっと終わらせちまうから任しとけ!」
いやいやいや、何を終わらせるつもり?
この感じは桃里くんの意識が消し飛んじゃってる?
「キミは誰だ?!桃里くんの意識はどこにやった?!」
鍊が叫ぶ。
「ん?前のこの身体の持ち主ならちょっと眠ってもらってる。もう起きることはないがな」
しまった。最悪な状態に...
桃里くん、申し訳ない...
「その身体を使って何をするつもりだ?」
「そりゃ地球をキレイにするに決まってるだろ」
父さんと同じ使命だったか。
「地球をキレイにする算段はもうついている。今は第二の危険な使命を持って生まれてくる子どもたちをどうするかが最大の課題になってるんだ」
鍊が説明を試みた。
「そんなこと知るか!俺様のやりたいようにやらせてもらう!」
鍊がこちらを見ながら苦虫を噛み潰したような表情をしている。
チョーカーを使う気か?
バチッ!!
「c(>_<。)シ*。お前、今何やった?!」
チョーカーが効かない?!
あのチョーカーは随意神経に流れている微弱な電流を制御して、完全に身体のコントロールを奪えるはずなのに、まったく効いてる様子がない...
桃里くんはどんな特殊な神経回路を持っているんだ?
まずい、彼を怒らせてしまったかも。
「悪いがこの身体はアップデートしたから、普通の人間に効くような攻撃は効かないからな」
アップデート?
それで歩けるようになったり、眼が見えるようになったりしてるのか。
魂が融合した瞬間に身体の組織を組み換えたってこと?
これは僕たちの手には負えないかもしれない。
それでも、
「攻撃するようなことをしてしまって、ごめんなさい。悪気はないんです。地球と人類を助けて欲しいだけなんです」
お願いをするしかない。
「お?元からそのつもりだぞ。やり方は俺のやり方でやらせてもらうがな」
「え?人間のことも考えてくれるんですか?」
「まあ、できる範囲でな。悪いようにはしないつもりだぞ」
あれ?もしかして大丈夫なのかな。
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