第82話
静はいくら揺すっても起きなかったが、バイタルサインは正常値だったので、少し様子を見ることにした。
「ところで、23億6千万円の借金てどういうこと?」
さっきの父さん①の借金の話が気になって、玲奈さんに聞いてみた。
「ああ、学生の頃、実験の後なんかに研究室によく皆で泊まってたんだけど、そこに全自動の麻雀卓があってね。よく皆でやったのよ」
まさか賭け麻雀でそんな高額の借金を作ったってこと?
「秀くん、あんなに頭がいいのに、麻雀は激弱くて、何故か私に放銃しまくってたのよ。逆に私は初心者で、リーチのみとか断么九のみとかが多かったんだけど、ドラがね、たくさん乗るのよ。最高記録はドラ12ね。爆ドラの玲ちゃんって呼ばれてたわ」
ドラ12って、ドラと役だけで数え役満じゃないか。玲奈さんってスゴい運の持ち主なのかな。
「それで、つもりに積もった負けが23億6千万円という訳。ま、本当にもらおうと思ってる訳じゃないんだけどね。弱味としては最高じゃない?」
玲奈さん、ちょっと怖い...
「うわぁ!何これ?スゴくたくさんの光の粒が見えるよ」
唐突に静が目を覚まして言った。
うまいこと二人の精神が融合して魂が見えるようになったのかな。
「それが人間の魂なのかな?静にはどういう風に見えてるの?」
「直径1mm位の光の粒が無数に月の表面に見えるの。あ、表面だけじゃなくて、何だろう、月の地球周回軌道上にも分布してるみたい。ほとんど白だけど、中にはピンクとか黄色とか色んな色もある。スゴくキレイ!」
急に静だけに見えるようになったってことは、これが人間の魂なんだろうな。果歩がいれば静が見てる景色を中継して見させてもらえただろうに。
これらの中に皆の魂があるはずなんだけど、どうやって見つければいいんだろう?
「静、果歩たちの魂は感じられる?」
「うーん、全然分からないナリよ。あ、でもちょっと待って。瑞希の胸にも光が見えてるけど、真っ赤ナリ。俺っち②とアリスも真っ赤。鍊と玲奈さんは白。ってことは、徳永一族は魂が真っ赤なんじゃない?」
僕からは何も見えないから何とも言えないけど、もしそうなら、果歩やエマたちも真っ赤な色ってことかも。
であれば見つけられる。か?この数。
「それで、同じ色の魂は近くにありそう?」
「全然見当たらないナリ」
「お前、本当に見えてんのか?」
父さん②が割り込んで来た。
「ちょっと望遠鏡を持ってきてやるから、それで見てみろ」
父さん②は建物に向かって歩いていき、隣に置いてあったキャタピラの付いた乗り物に乗って帰って来た。
乗り物の上には何やら金属の骨組みが載っている。
乗り物に付いているボタンを押すと、骨組みが組み合わさって伸び、鏡筒のない望遠鏡のような形になった。でも、レンズが付いてないんだけど。
「ここから覗いてみろ」
父さん②は静を呼び寄せ、望遠鏡と思しきものを覗かせた。
「お!遠くの魂もハッキリ見える。これは光学迷彩と同じ原理で光を屈折させてるってこと?」
「いや、あれは真空では動作しないからな。これは局所重力レンズだ」
「すげー!」
本人の別人格同士で話をするってどういう感覚なんだろ?
また高度な技術の話っぽいけど。
「AICGlassesと連動させて、見たいところの倍率とピントを合わせられる。しっかり探せよ」
「うす!」
あー、何か静が父さん②の手下みたいになっちゃってるー。
そもそも、静が見ている魂の姿は、恐らくダークエネルギーと精神エネルギーの干渉のはずだから、光とは違うもののはず。
なのに重力レンズに反応して像が拡大されるということは、重力には反応するものなのか。確かにダークエネルギーは宇宙を膨張させる負の重力に関係しているという話だった。
そうして、静が重力レンズ望遠鏡をぐるぐる回して皆の魂を探し始めてから10分くらい経った頃、望遠鏡を真上の方に向けながら、
「お!この赤い光は!拡大、拡大。これスゴいな、いくら拡大しても像がボヤけないよ」
「フッ、当たり前だ。重力レンズは光学レンズと違って、色収差も像の歪みも発生しない!」
「地球と月の延長線上にあるL2ラグランジュポイントに6つの赤い光が見える」
6つ?
それが果歩、茉莉、武蔵とエマ、イーサンだとしてもあと一つは誰だ?
あ、静の魂かな?
「よし、よくやった!早速回収に行くぞ!」
僕らより父さん②がやる気出しちゃってるけど...
「あ、でもどうやって回収するの?静も魂に触ることはできないんでしょ?」
「ああ、それには多分だけど周回船に載せてある中性子容器が使えるんじゃないかと思ってる」
ん?あの宇宙機を重くしているという?
「魂がダークエネルギーと干渉するなら重力には反応すると思って、回収容器として使えるんじゃないかな。ダメだったら、また考えてみるよ」
まあ、魂がどんなものかも分からないまま来ちゃったから、一発で回収できない可能性もある訳だけど、何とか今回のミッションで持ち帰りたい。
早く果歩たちを生き返らせたい。
「お前たちの着陸船は俺たちも乗れるか?」
「2名であれば問題ありません」
父さん②の質問に時子さんが答える。
うーん、いつの間にか父さん②たちが仲間のようになってるけど大丈夫かな...
こうして全員で着陸船に乗り込んだ。
「よし!じゃ早速出発!時子とやら、L2への最短ルートの策定頼む」
「徳永さん、この機の船長は私ですので、少し謹んでいただけますか?」
鍊がちょっとムッとしながら父さん②に告げる。
「お、悪い悪い、基本的に先頭に立ってないと気が済まないたちでな。ちょっとおとなしくするわ。そのかわし、EmmaとEthanの復活は頼むからな!」
無言で鍊が頷いた。
「ルート策定コンプリート。一旦オービターに寄って中性子容器を確保してからL2へ向かいます。到着予定時刻は75分後です」
時子さんが皆の所に着ける時刻を教えてくれた。あと1時間ちょっとで皆に会える、のかな?
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