第81話
【瑞希】
父さん②は自身の手首を擦りながら立ち上がり、
「お前ら、生き残れると思ったら大間違いだからな!」
と、ヤクザみたいな口振り。
「人間は一挙手一投足が地球環境に負荷を与えている。なにか作れば、必ずいつかゴミになる。食べ残せば食品ロスだが、食べても排泄物が出る。息をするだけでも二酸化炭素を吐き出す。もう人間は地球に必要ない!」
「それは地球を鑑賞対象としているから言えることでしょう?人間が地球に住み続けてもキレイにする方法を一緒に探してくれませんか?」
何とかこの父さん②を説得しないと。
「そんなことより、Hideyasu、人間の魂がこの月に集まっているらしいのよ」
アリスが僕の話をまったく聞かずに、父さん②に魂の話をした。どんな反応をするんだ。
「そんなもの、月も地球と一緒に粉々にしてしまえば霧散するんじゃないか?」
えー?天才科学者とは思えないアバウトな考え方だった...
「でも、地球が再生した時まで残っていられたら面倒じゃない?」
「まあ、確かにそうか」
「あの子どもがあなたの第1人格と第3人格を取り込んで、おまけに魂を感知できる能力を持ってるらしいのよ」
アリスが父さん②に静を指さして言う。
しまった。全てをアリスに教えたのは間違いだったか。
「そうなのか。では人間の魂とやらがどれ程月に集まっているのか教えてもらおうか」
父さん②が静に詰め寄った。
「うーん、まだその能力使えてる訳じゃないみたいナリよ」
微動だにせず静が答えた。本当に身体は父さん①が支配してるみたいだ。
「取り敢えず、月面に行ってみない?」
ここにいても話は進まなそうだと思って、提案してみたけど...
「そう言えば、EmmaとEthanはお前たちに殺されたんだっけか?」
「いや、今東京の病院で眠っている。月にいるはずの魂を戻して、二人も生き返らせるつもりだ」
鍊が二人の状況を説明した。
「どういうことだ?」
僕は、シャイアン・マウンテン基地での出来事と、蘇生をして日本に連れていき、病院で魂の帰還を待っていることを説明した。
「二人は今も生きているのか?」
父さん②が震えるような声で尋ねてきた。
「生きてはいるけど意識はなく、僕の中のソマチットが言うには、この月に二人の魂も来ているはずで、もう一度地球に連れて帰れば意識も戻るかもしれないって...」
「それを早く言え!早く二人の魂を探すんだ!」
あれ?
急に感じが変わったぞ。
もしかして、意外にも子どもを大事にする人なのかな?
「皆で月面に出るぞ!」
うまくすれば父さん②も味方になってくれるのではという淡い期待のもと、皆で月面に向かった。
静の特殊能力がすぐに使えればいいんだけど。
『王』
「お、ソマチット。いよいよ皆の魂を探す段階になったよ」
『残念なお知らせがございます』
ギク。
『静さまの中の人格がまだ分裂したままなので、特殊能力が使えていないようです』
そうか、確かに言動と身体の動きがバラバラのようだったし。
「どうすればいい?」
『恐らく、秀康①様が完全に静様を信用できていないため、精神に壁が生じているものと思われます』
「ということは、父さん①に静を信用させれば二人の精神が融合するってこと?」
『恐らくは...』
「分かった。方法を考えてみるよ」
とは言ったものの、どうすれば父さん①に静を信用させることができるんだ?
「おい!早いところEmmaとEthanの魂を探し当てろ!」
「うーん、今のままじゃダメそうナリよ」
「おい、全部嘘なんじゃないだろうな!」
まずい、父さん②がキレだした。
そう言えば、玲奈さんは父さん①の弱点を色々知ってるはずだった。
「玲奈さん、今、静の中の父さん①と父さん③の精神がバラバラになってるらしくて、例の特殊能力は二人の精神が融合しないと使えないみたいなんだ。何とか父さん①に静を信用させる方法はないかな?」
「あ、そういうことね。じゃあ、アレいってみよっかな」
さすが玲奈さん、本当に父さん①の弱点をたくさん知ってるみたいだ。
「秀くん、あなた、私に23億6千万円の借りがあったわよね?」
静の身体がビクッと震えた。
何その超高額の借金...
「当時、研究室の皆が、その借金を踏み倒すために、玲奈ちゃん秀くんに殺されちゃうかもって、噂してたわよね?」
静の身体が小刻みに震えていて、ヘルメットでよく見えないけど心なしか顔色が悪くなってきた気がする。
「もしかして、私のこと、実験のときに殺そうとした?」
静が手振りと身体を駆使して何か言いたそうに暴れだしたけど、何が言いたいのかさっぱり分からない。
「ほら、弁解できないならそういうことにしちゃうよー」
玲奈さんが何か悪魔のような口振りで父さん①を脅しだした...
「早く静に心を開いて融合しないと、あたしを殺そうとしたことになっちゃうよー」
と言われた静は、とうとう倒れて意識を失ってしまった。
「ありゃ、やり過ぎたかな?」
「玲奈さん、どういうこと?」
「訳が分からなくなるほど精神的に追い詰めたら、静ちゃんの精神の方に逃げ込むんじゃないかと思って」
スゴいこと考え付くよね。
「静!大丈夫?!」
僕は静の身体を揺すって、意識を戻そうと試みた。
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