第55話
(Help me...)
ん?
微かに声が聴こえた気がする。
英語かな。私、英語苦手なのよね。
AICGlassesは面と向かって話すときには同時通訳してくれるから、ほとんど意識しなくても外国人と話せるらしいけど、思念波には翻訳機能はないからなぁ。
「今、誰かの声が聴こえた気がする。えぷみーって」
「えぷみー?ヘルプミ―じゃない?助けてって」
瑞希に突っ込まれた。
「私、英語苦手なのよ」
「えー?大学生なんでしょ?」
「建築家に英語は要らないの!」
「ま、僕も英語は苦手だけど、中国語なら日常会話レベルは話せるよ(自慢気)」
瑞希、何か腹立つわね...
とにかく、誰かが助けを求めてるってことだけど、どこからか分からないわ。
(Help...)
!真下だわ。
「真下に人がいる!」
「このホテルの地下にはカジノと金庫として使用されている古い核シェルターがあります。恐らくそこからでしょう」
時子がこのホテルの見取り図をAICGlassesに転送してきた。
徳徳ドローンを呼び戻し、皆で地上のホテル入口に向かった。
地上に着くと、またドローンを上空に上げて警戒体制にする。
入口の自動ドアは壊されていて、難なくロビーに入ることができた。
内部には電力が来てないらしく、照明もエレベータも動いていなかった。
見取り図から、地下へ向かう非常階段を見つけ、武蔵を先頭に階段を降りて行く。
完全に真っ暗なので、ナイトビジョンでもほとんど映らず、外骨格のこめかみのところに装着されているサーチライトを点灯させた。
随分降りてきたと思うけど、まだかしら...
地下10階の表示があり、厳重な扉が現れた。
扉の端にテンキーと指紋センサーのようなものが付いている。
何か、アメリカの映画とかゲームみたいな展開ね。
こういう時、映画だと無理やりこじ開けるか、スマートにハイテク機器で難なく開けるかだけど。
キンキンキン!
あー、そんなことを考えてる隙に茉莉がハイパーダイヤモンドの刀で斬っちゃったよ...
厚さ10cmもあろうかと思われる金属の扉はいとも簡単に茉莉に斬り刻まれ、碁盤の目のような模様が刻まれた。
武蔵が押すと、扉は掌の形に凹み、そのまま向こう側へ崩れ落ちた。
あーあ、扉をこんな風に壊しちゃったら、もう核シェルターとしての性能は望めないわね。
まあ、この先核戦争が起きるとも思えないけど。
粉々にした扉を後に真っ暗な通路を進むと、20m程先にまた扉があった。
先ほどの扉と同じようにテンキーと指紋センサー、カメラが付いてるけど...
キン!キン!キン!
また茉莉が同じように斬り刻んじゃった...
この娘はあれね、考える前に身体が動いちゃうタイプね。
(Jesus!Did those androids come again?)
また声が聴こえたけど、チンプンカンプンだわ。
かろうじてアンドロイドって言ってた気がする。
「この先に誰かいるのは間違いなさそう。5,6人かしら」
「こんにちは!誰かいますか?私たちは怪しいものではありません!」
いきなり茉莉が大声で話し掛けた。
「騙されないぞ!お前らが生き残った人たちを殺してるんだろう!」
茉莉の呼び掛けに答えた英語がAICGlassesによって、すぐさま日本語に変換される。
どういうこと?
「私たちは日本から来ました。今起きているこの氷河期を止めたいんです!」
少し間を開けて、
「ではアンドロイドではないという証拠を見せろ!」
と要求してきた。
アンドロイドではない証拠って...
すぐに武蔵がナイフを抜いて、左手の甲を軽く刺した。
血が滲んでいく。
それをカメラに向けてかざした。
「分かった。入れ!」
さすが武蔵、有無を言わせないわ。
扉を押すと、またバラバラに崩れてしまった。
また武蔵を先頭に扉の先に進むと、中は20畳くらいのリビングのような部屋で、人は5人いて、家族のようだった。
50歳くらいの体格のいい男性が、小銃をこちらに向けている。
あれはアメリカ軍のM4カービンね。かなり古い銃だわ。
「ここに何しに来たんだ?!」
「さっきも言ったけど、氷河期を止めるため、その原因を作った徳永秀康という人を探してるの」
茉莉が答える。
「トクナガ?」
奥にいた女性が徳永という名前に反応した。
「あなた、徳永秀康を知ってるの?」
「私がシャイアン空軍基地で働いていたときに、やって来た人が確かその名前でした。科学者とのことでした」
やはり例の空軍基地にいたのね。
「詳しく聞かせてもらえるかしら」
と話し掛けた途端に、
「外部に人影を探知2。身長から子どもと思われますが、サーマルスキャンによると人間の温度分布ではありません」
時子がドローンで人影を見つけた報告をした。
「奴らだわ!」
「奴ら?」
「ラスベガスで生き残った人たちは皆奴らに殺されたのよ!」
ここにいた人たちが、皆怯え始めた。
「まっすぐこのホテルに向かって来ます」
闘うことになるのかしら。
「外に出ましょう。ここの人たちを巻き込む訳には行かないわ」
私たちは急いで地上に向かった。
ホテルのロビーには、中学生くらいの男の子と女の子が立っていた。
「やっぱり来たね。君たち日本から来たんだろう?」
何この子たち、人間に見えるけど、全く思念を感じないわ。
アンドロイドってこと?
「Ethan、この人たちもしかしたら...」
「うん、間違いない、僕らと同じだ。でも使命は持ってないみたいだな」
使命?
「悪いけど、僕らの邪魔をするつもりなら、同類であっても排除することになるが」
「邪魔ってどういうことよ?!」
茉莉が噛みつく。
「地球から人間を駆除する。一人残らずね」
「あなたたち誰なの?」
「僕らは徳永Aliceチルドレン。地球をキレイにするという使命のためだけに生きている」
徳永Aliceチルドレン?!
私たちの兄弟ってこと?
地球をキレイにって、静が思っていることと同じじゃない!
ってことは、例のお父さん②の子どもたちってこと?
何でここにいるの?
「今、何でここにいるのって思ったでしょう」
この女の子、私と同じ能力を?
「私たちは世界中に配備されて、生き残った人間をターミネートする役割を持ってる、アンドロイドよ」
「本体である僕らの思考をシミュレートして、自律的に動いているけど、すぐに記憶は全個体でマージされるから、君たちのこともすぐに本体が知ることになる」
何だかよく分からないけど、本体となる人間の兄弟がいるってことね。
「なぜ人間を殺そうとしてるのさ!」
瑞希が珍しく声を荒げてる。
「なぜって、地球を汚してるのは人間だけだろう。僕たちの目的に反してる、から」
「地球の気持ちはどうなる!」
「地球の気持ち?」
「地球はそんな事望んでいないってこと!」
「まるで地球に話を聞いたような口振りだな」
「ここにいる《時子》は地球の意識が憑依してるんだ」
「トキコ?僕らのハッキングを阻止したAIだな?君らは騙されている。地球の意識とやらは、そのAIがエミュレートしたものに過ぎない」
「何?」
時子の地球としての振る舞いが「振り」ってこと?
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