第56話
【瑞希】
時子さんが地球って、やっと飲み込め始めてたのに、違うってこと?
でもソマチットも認めてたしなぁ。
「お前たち、随分疑り深く造られたな」
時子さんが答えるけど、また例の神妙な話しぶりになってる。
「お前たちがどう思おうと、我はこの者たちと生きて行くことを決めた。それを阻止しようと言うなら、こちらも立ち向かうまでだ」
「分かりました。会って早々ですが、皆さん全員排除させていただきます」
ビ!
む、一瞬子どもたちが眩しく光ったが、何も起きなかった。
この瞬間に時子さんが強制的に全員の光学迷彩を展開したみたいだ。
ということは、高出力レーザーか何かを照射されたってことか、と思った一瞬の間にイーサンと呼ばれた男の子が目の前に迫っていた。
ドッ!
光学迷彩を纏っているのに正確に身体を突かれた。
辛うじて身体を捩って避けたけど、横腹に当てられてしまった。
ものすごい速さだ。
まともに食らったら、外骨格の上からでもダメージが来るぞ。
タタタタタ!
誰かが38式で攻撃してるけど、イーサンはフラフラしながら全弾避けてる。
下手すると同士討ちになるぞ!
「時子さん!迷彩、撃たれる時だけにして!」
「コピー」
光学迷彩が解かれてみんな見えるようになった。
女の子の方は茉莉が闘ってる。
女の子は茉莉の斬擊を、切っ先をスレスレで躱しながら、蹴りを繰り出してる。
茉莉の攻撃の速さに付いて行けるとは...
女の子が茉莉の突きを両手で挟んだ!
「まずい!折られるぞ!」
ドン!ドン!ドン!
武蔵が叫びながらSFP9を連射する。
あれだけ弾を避けてた彼らが、何故か全弾当てられて、慌てるように引き下がった。
「思った以上の性能だな」
イーサンがこちらを睨みながら言う。
彼らの身体にはほとんど傷が付いてない。
どうする?!
こんな奴ら、倒せるのか?
武蔵が前に出た。
「果歩姉!茉莉姉の頭に俺の頭をリンクして!」
「は?どうやんのよ、それ!」
果歩が分からないながらも集中し始めた。
すると、武蔵と茉莉が同時に女の子に攻撃を仕掛けた。
イーサンの方には時子さんが対峙し、女の子に近付けさせないようにしている。
僕は集中している果歩を援護しなくちゃ。
茉莉の斬り込みを避ける女の子の先を読んで、武蔵が攻撃してるけど、素手では全くダメージを与えられなさそうだ。
何度か攻防が続き、武蔵がフェイントから繰り出した右のフック、そこからまた隠し持ったSFP9を連射して、女の子の動きを止めた瞬間に茉莉の突きが胸に入った。
ハイパーダイヤモンド刀の突きは、さすがに女の子の胸を裂き、女の子はそのまま倒れ込んだ。
「Emma!」
イーサンが叫んで、女の子に駆け寄った。
この子たち、本当に人間みたいだ。
「君たちの性能は理解した。次に会うときはこちらも排除できるだけの性能で相対しよう。まあ、それまで君たちが生き延びられたらの話だが」
と言って、イーサンはエマと呼ばれた女の子を背負って立ち去った。
追撃した方がよかったかもしれないけど、子どもの姿のアンドロイドを倒すのは、なかなか忍びない思いがした。
甘い考えかもしれないけど。
『王』
「あ、ソマチットか?」
『左様にございます』
「久しぶりだね」
『はい。実は、例の巨大ドローンを倒した際、かなりの犠牲を伴ってしまいまして、やっとほぼ元通りになりましてございます』
「やっぱり。ちょっと無茶だったかと思ってたんだ」
『それより、お伝えしたいことが。実は今のアンドロイド、闘いの中で密かにウイルスを散布していたようです』
「え?ウイルスは時子さんがモニターしてたはずだけど。だから生き延びられたらなんて言ってたんだ」
『ごく微量でしたので、機械では感知できなかったのかと』
「じゃあ、みんな感染してしまったってこと?」
『いえ、皆さんに近付いてきたウイルスは我々が捕まえて、分解しておきましたので、皆さん感染はされておりません』
「君たちそんな事も出来るんだ。助かったよ」
『私たちにできることはそれほど多くはありませんが、全力で王をお守り致します』
「ありがとう。助かるよ」
『勿体なきお言葉!』
そうか。僕、今まで風邪とかも引いたことなかったんだけど、ウイルスとかからソマチットが守ってくれてたんだ。
でも、何で僕のことを王と呼ぶのかな?
その後、さっきの家族に話を聞くため、地下のシェルターに引き返した。
「お前ら無事だったのか。奴らはどうした?」
父親が心配そうに聞いてきた。
「一人は倒して、逃げて行ったけど、その内また来ると思う」
「おい、どうするんだ、食料だって無尽蔵じゃないんだぞ!」
「彼らの本拠地はシャイアン・マウンテン空軍基地だと思うから、この後決着を付けに行ってくるよ」
武蔵が決意を込めた感じで告げた。
そう言えば、僕ら、さっきのが初めての実戦だったんだな。
訓練では百戦錬磨の武蔵とて、本当の実戦は初めてだったんだ。武蔵が何か更にたくましくなったように感じる。
「ところで、なぜ皆さんはウイルスに感染せずにいられたんですか?」
茉莉が素朴な質問ですが、といった感じで問い掛ける。
確かに他の人たちはほとんど死んでしまったのに、家族で生き残っているというのは...
「私たちは、アメリカン・インディアン。このラスベガス郊外に昔から住んでいる原住民です」
例のシャイアン・マウンテン基地で働いていたと言っていた女性が答えた。
「恐らく、私たちの遺伝子に例のコロナウイルスに対する耐性があるのだと思います」
「いや待て。君は...」
父親が僕をじっと見ながら話し掛けてきた。
「もしかして、あなたはソマチットの王ではありませんか?」
んを?なぜその台詞を?
「確かに時おり頭の中から『王』と呼ぶ声が聞こえるんですが、何かご存知なんですか?」
「やはり!これは大変失礼を致しました!あなた様が現れるのを、我が一族は何世代もお待ち申し上げておりました!」
ん?何か大袈裟なことになってきたぞ。
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