第54話
【茉莉】
いよいよアメリカに上陸ね。
戦闘用の服一式(インナー、外骨格、カーボンナノチューブで作られたシューズ、AICGlasses)に着替えて、38式小銃を胸の位置にセット。
SFP9を右の太腿にあるホルスターにセット。
38式とSFP9のマガジンを胸と腹の位置にセット。
フラッシュバンと手榴弾を腰の後ろにセット。
最後にハイパーダイヤモンドの刀を鞘ごと背中にセット。
ハイパーダイヤモンドって、恐らく宇宙で一番硬いらしいんだけど、実は火には滅法弱いらしい。
そもそも原料は炭素だから、よく燃えるそうな。
確かに、自転車部の先輩が火事に遭ったとき、カーボンでできた自転車は跡形もなかったと言ってた。
火にだけは気を付けないと。
徳徳ドローンをクジラの口のところまで出して、身体をセットする。
徳徳ドローンの下にうつ伏せになる形で外骨格とドローンが接続される。
海には結構波があって、クジラが大きく揺れる。
雪が横殴りに降っていたけど、外骨格のヒーターが動いているらしく、全く寒さは感じない。
近くに誰かのクジラがうっすら見える。
「皆さん、準備はできましたか?」
時子から確認の連絡が入る。
「あ、もうちょっと、です」
瑞希兄から泣きが入った。
相変わらず、ちょっとどんくさい。
ま、そこが瑞希兄のいいところでもあるんだけど。
「準備できました」
徳徳ドローンの動作チェックが一通り走った後、一気に空に舞い上がる。
すぐに光学迷彩が周りを包んで、視界はAICGlassesからのものとなる。
吹雪の中、海が途切れ、白い陸地が見えてきた。
辺り一面雪に埋もれている。
ここまで雪が積もっているなんて、さすがに思わなかったわ。
カリフォルニアと言えば、緑豊かなヨセミテ国立公園があるところよね。
ヨセミテっていう自転車が昔あったって聞いてたから、ちょっと知ってるんだよねー。
こうして斥候ドローンが確保した場所まで、すぐに到着した。
一旦ここをベースキャンプにして、周りの状況を調査してからコロラド州に向かうプランで、例の斥候ドローンを飛ばして情報を収集することになった。
程なく、周囲10km圏内の様子が分かったが、人間の姿は全く見当たらなかった。
例のコロナウイルスで皆死んでしまったのかしら。
私たちも抗体を持っている訳ではないから、逐一ウイルスの存在をチェックする必要があって、時子が常にウイルスをモニターしている。
検出されたらすぐに外骨格のガスマスクを装着することになっていた。
今のところウイルスは検出されてないみたいだけど。
衛星からの映像で、アメリカで人間が生きていると見られる都市は5ヶ所、ワシントンD.C.、シカゴ、ダラス、カンザスシティ、ラスベガスで、コロラド州のシャイアン・マウンテン空軍基地には形跡は認められなかった。
アメリカで人間が生きているのか確認するため、シャイアン・マウンテン空軍基地に向かう途中に唯一形跡がある、ラスベガスを経由することになっていた。
現在地からラスベガスまで約640km、徳徳ドローンで約7時間という距離だけど、自転車だと一日じゃムリかな。でも今の体力なら行けるかも。
「飛行ルートの策定が終わりました。斥候ドローンを5km先行させながらラスベガスに向かいます」
時子が出発準備完了を告げる。
斥候ドローンを飛ばし、程なく私たちも出発した。
相変わらず吹雪で視界が悪い。
特に何も起こらないままラスベガスまで20kmの地点まで到着した。
また一旦着陸して、斥候ドローンを偵察に出すことになった。
ラスベガスって言えばカジノで有名なところよね。
日本でも昔IR(統合型リゾート)法案というのがあって、カジノも作られようとしていたけど、「治安悪化の懸念」「マネーロンダリング(資金洗浄)の場となる危険性」が市民から指摘されて、結局実現しなかったって歴史で習った。そもそも目的が外国人旅行者からお金を巻き上げようという話で、日本人の慣習には合ってなかったのよね。
カジノで使うようなお金があったら、貯金よ貯金!
今日で実戦3日目だから、今日が終われば30万円!
夢が膨らむわー!
そんな事を考えていると、斥候ドローンが何か見つけたとの報告が時子から告げられた。
「光学迷彩で包まれている地域を発見。中央上空から侵入してみます」
ずいぶん大胆な侵入経路ね、敵がいたらさすがに見つかるんじゃ...
斥候ドローンからの映像がAICGlassesに映し出される。
真っ白な光学迷彩範囲の中にドローンが入って行くと、辺りは暗くなり、大きなホテルが何軒か見えてきた。
迷彩の中は気温が高いのか、雪はほとんど融けていたが、人気はない。
サーモスキャナの映像に切り替えて人間を探すが、地上には見当たらなかった。
さすがにドローンでは建物の中には入ることはできない。
これは現地に行くしかなさそうね。
時子もそう判断したらしく、皆でラスベガスに向かうことになった。
安全のため、途中から歩いて行くのかと思ったが、雪が積もっていて進めず、直接光学迷彩の中に降りることになった。
真っ暗な大きなホテルのヘリポートに降り立ち、すぐに各自のドローンを周囲に飛ばして警戒する。
AICGlassesをナイトビジョンモードにすると、緑色に景色が浮かび上がり、早速武蔵の眼と果歩姉の思念波探知で人間を探し始めた。
【果歩】
武蔵が暗い中、例の目薬を時子に点してもらって肉眼で遠くを確認してる。
光学迷彩内部は外からの光が入らないため真っ暗になるが、どこからか電力が供給されているらしく、所々街灯が灯っている。
明るいところを重点的に探しているようだけど、人の形跡は見当たらないようだ。
私は人の心の声が聞こえないか心の耳を澄ませてみる。
こんなに広い街で人の声が全く聞こえないなんて、初めての経験で、ちょっと怖い感じがする。
やはり例のウイルスで全員死んでしまったのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます