第三章

第52話

【瑞希】

 時子さんの正体が地球...

 まだちょっと理解できてないけど、地球の意識が乗り移ったってこと、らしい。

 確かにアンドロイドにしては、言うことが達観してる感じはしてたけど、まさか人間でもないとは。

 あ、そう言えば、ソマチットが直径1万3千kmの鉄の塊って言ってたな。あれって地球のことだったのか。

 そもそも地球に意識があるって、初耳なんですけど。

 人間がこれまでにしてしまった地球の環境破壊、時子さんは何も感じてないと言ってたけど、気分のいいものじゃないよな。

 僕もこれからは気を付けよう。


 さて、今日は最終訓練から3日経って、アメリカへ渡るための作戦ブリーフィングが行われることになっている。

 この間、皆はそれぞれ実家に帰って、家族に別れを告げて来ていた。

 皆もちろん日本に戻って来るつもりだけど、正直何が起こるか分からないから。

 でも、僕は帰らずに富士学校に残った。

 なぜか今は母に会おうという気になれなかった。

 今会ってしまうと、何かアメリカから帰って来られないような気がした。


 ブリーフィング開始の時間より早く着いたものの、例の大きな会議室の一角にみんな既に集まっていた。

「さて、アメリカに渡る方法だケロ」

 静が話し始める。


「空から行ったら、間違いなく墜とされるから、海中から行ってもらうナリ」

 海中...

 潜水艦ってことかな?


「常温核融合炉を載せた潜水艦はものすごーく静かだから、見つからないと思ったら大間違いナリ。アメちゃんの強化されたSOSUS網は、常温核融合炉の駆動音も探知できる性能を持ってるから、見つかって沈められるのが落ちだす」

 ソーサスって何だろ。


「なもんで、前にプラスチックを食べるプラ美ちゃんを作ったマイクロマシンでクジラを作ってみたナリよ」

「えー?何クジラ?」

 茉莉が問う。そこ重要なのか?


「地球最大の動物、シロナガスクジラだす!でも単独行動だと怪しまれるかも知れないから、お父さん、お母さん、その従兄弟、息子、娘×2の6頭の家族構成にしたヨ」

 そこ、重要なんだ...


「外観と素材的には生物と同じだから、バレないと思うケロ。口から中に入れば、音もほとんど漏れないし、徳徳ドローンや各種装備も積めるヨ」

「しつもーん。そのクジラってどのくらいのスピードが出るの?」

 果歩が質問した。確かにアメリカまで相当距離があるから、クジラで行くのは時間が掛かるんじゃ。


「全力で大体40km/hくらいかな」

「は?アメリカまで1万kmあんのよ。10日と10時間も掛かるじゃない!」

 果歩、計算早!


「うん。だから、途中まではNOE(超低空飛行)で空から行く」

「クジラ、空飛べるの?」

 茉莉が問う。いや、飛べないだろ。

「飛べなくはないケロ、飛んでたら怪しまれるから、途中までドローンで運ぶナリよ」


「で、行き先はワシントンD.C.?」

 武蔵、今日はクールモードかな。最初に会った時みたいだ。

 少しずつ打ち解け合って、最近は子どもらしい面も見えてきてたのにな。


「んにゃ、コロラド州シャイアン・マウンテン空軍基地だす」

「コロラド州?!アメリカのど真ん中じゃない!海から何千kmあんのよ!?」

 すげー。果歩って、実は物知りなのかな?


「例の巨大ドローンを調べたら、そこから来たことが判ったナリよ」

「シャイアン・マウンテン空軍基地は今から80年以上前に、核戦争を想定して北アメリカの航空防衛司令部が作られたところです。主要構造は地上から1.6kmのトンネルの先にあり、核攻撃にも耐えられるシェルターです」

 練が説明してくれた。


「徳永氏がそこにいると?」

 果歩が静の顔を覗き込む。

「それは分からないケロ、手掛かりがある可能性は高い、と思うナリ」

「静は今の徳永②の意識は感じられないの?」

「静に意識が移ってから、ただの一度も感じられズ!」

「そりゃ残念」


「敵の想定は?」

 武蔵が質問した。流石、冷静だなあ。

「空軍基地だから、防空設備と迎撃機は揃ってるし、小隊規模の兵士と機動兵器はいるだろね。でもね、ホントは俺っちが行きたいんだよー。ウォーゲームって映画の舞台だったんだヨ。もーし核攻撃があったら、報復のための核ミサイルのボタンを人間の兵士が押せるかってテストで、ほとんどの兵士が押せなかったもんで、AIに戦略兵器運用を任せることにしたっていう話で、60年も前の映画なんだけどAIが意識を持ってるんだって!スゴくないケロ?」

 静、話が長いよ。よくそんな昔の映画知ってるよね。


「陸に上がってからは、全員分用意された徳徳ドローンで現地まで向かいます。アメリカは一部の都市を除いて雪が降り続いているようです」

 と時子さんが補足する。


「そう言えば、時子ちゃんは地球なんだから、アメリカの状況も全部分かってるんじゃないの?」

 果歩が質問する。確かに自分の身体みたいなものの話だから、どうなってるか分かっても不思議じゃないよね。


「残念ながら、私の意識は全ての場所まで及んでいる訳ではなく、表面まで認識できるのは数十ヶ所に過ぎません。地殻や海は、人間で言う服のようなものなのです」

 なるほど、そうなんだ。


「では、出発は明朝6時とします。日本では、私と楢原一尉、静が常にサポートします。葉月さんも、リハビリがある程度終わり次第合流いただけることになっています」

 と練から。


 あぁ、葉月さん、協力してくれるって言ってたもんね。また会いたいな。ん?何で僕は会いたいんだっけ?


 こうして僕らはアメリカへと旅立った。

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