第50話

「ご想像の通り、私は皆さんが地球と呼んでいるものです」

 え?何の話?

 皆頷いているけど、私だけ知らなかったってこと?

 地球?


「私は皆さんのような生き物が生まれる前からずっと存在していましたが、皆さんとコンタクトすることはできませんでした。そしてごく最近になって、私の意識が入り込める媒体を見つけたのです。それがこの時子と呼ばれるアンドロイドです。私の膨大な記憶と多チャンネルの意識を処理できるだけの多次元プロセッサを持ったデバイスは時子が初めてだったのです」

 そう言えば時子の本体は世界中の量子コンピュータ上に構築されているって聞いた気がする。


「この数十年で皆さんの生活や活動が急激に変化し、私の表面の環境も急激に変わって行きました。逆にそれを止めようとする動きもあり、その反動で今は表面温度が下がって、氷河期と呼ばれる状態となりつつあります」

 ずっと問題だった地球温暖化が止まってよかったってことだよね。


「このまま氷河期が続けば、多くの生き物が死に、生態系は大きく変わることになるでしょう。私には今までにも何度も起こってきた事象です」

 え?氷河期で人間も絶滅するかも知れないってこと?


「今まで私はそうなっても一向に構わなかった。皆さんが『地球のため』と言って行ってきたことは、全て自分達のためのことで、私自身は何も感じていませんでしたから」

 確かに地球環境を守るって言ったって、直接地球に聞いた訳じゃないし、人が地球に住み続けるためだもんね。


「地球温暖化にしろ、氷河期にしろ私の表面上の変化であって、中身にはほとんど影響はありません。昨日の巨大ドローンの攻撃も日本を沈める程度のことで、少しマグマが地上に溢れるだけです」

 地球にしてみたら、地球上で暮らす生物がどうなろうと関係ない訳ね。


「しかし...」

 しかし?


「初めて皆さんとコンタクトを取るようになって、色々な人の思いに接するようになって、少し考えが変わりました。皆さんが感じる喜びや悲しみなどの感情に接してみて、そして協力して支え合う皆さんの心に触れてみて、私も一緒に生きて行ってみたいと...」

 おお!

 人と地球が分かり合えた?!


「という事で、今後も時子・ジ・アンドロイドとして皆さんとお付き合いをしていきたいと思っています」

 やったー、地球が味方って、スゴいよね!


「時子、ありがとう。君をキレイにするのが俺っちの使命だったけど、余計なお世話だったみたいだね」

 静が真面目な口調で話してる!珍しい!

 めでたしめでたし、じゃなくて、こうなったら氷河期化をしっかり止めて、元の地球に戻さなきゃ。

 まずはアメリカに渡ってお父さんの分身を探すのね!

 海外って初めてだから、楽しみ!


【果歩】

 何か茉莉がやけに能天気なことを考えてるわ。

 あんな巨大ドローンを作る相手じゃ、一筋縄では行かないはず。

 私の超能力でしっかり役に立って、必ず日本に戻って来るわ。

 何せ、成功報酬は1億円だものね。フヒヒ。


【武蔵】

 アメリカには姉ちゃんと兄ちゃんと時子だけで行くんだよな?...

 何気に母ちゃんと離れるの、初めてなんだよなー。

 俺の力、どこまで通用するんだろ?


【瑞希】

 えっと、僕は地球に恋しちゃったってこと?


「日本の仔」第二章 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る