第49話

【瑞希】

 最終訓練が終わって、何とか無事に富士学校に帰ってきたものの、何故かものすごく疲れていた。

 もしかして、犠牲になってくれたソマチットが実はかなり多かったんじゃ?

 とにかく、食事を採って、風呂に入って、泥のように眠った。


 翌朝目が覚めると、何とか普通に起きることができた。

 でも、夢の中にはソマチットは出てこなかったな。

 今日は最終訓練のデブリーフィングが行われることになっている。

 皆もさすがに疲れているようで、朝食はギリギリの時間に食べた。


「おはよう瑞希」

 果歩が話しかけてきた。

「おはよう果歩」

「昨日はお疲れ。最後のアレ、スゴかったね。瑞希のソマチットにあんなことができるなんて」

「うん。僕もビックリしてる」

「あと、あんたの時子ちゃんも何か変な感じだったし」

 そうだ、時子さんどうしちゃったんだろう。

『わし』って、急にお爺さんみたいな口調になってた。

 確かソマチットが時子さんには性別という概念がないとか言ってた気がする。

 確かにAIだったら性別はないのかもしれないけど、それだけじゃなさそうだ。

 この後のデブリーフィングで話が聞けるといいんだけど。


【練】

 最終訓練は途中で終わってしまったが、日本が沈められることは「たまたま」阻止できた。

 もし敵が富士山ではない場所を選んでいたら、阻止できなかっただろう。


 この訓練で徳永チルドレンたちの連携と更なる能力の開発を狙っていたが、敵が現れたおかげで予想外の力を引き出せた。

 果歩はチルドレン同士で視覚の共有ができるようになり、茉莉は至近距離での榴弾の爆発を刀で防げるほどの速さを手に入れ、武蔵は射撃の最大射程距離を更新した。中でも瑞希はソマチットと武蔵の協力で核兵器クラスの攻撃力を持った。

 ただ、気になるのは、時子が見せた別人格だ。

 自分の母親役をしていた時には見たことのない姿だった。


 話していた内容からすると、地球の意識が話していたように思える。

 以前から地球が一個の生命体であり、意識があるという説は語られてきた。

 地球を構成している物質がほとんど無機物であることから、生物のような意識や記憶が芽生えることはないように思えるが、人間の考えが及ばない未知の領域で無機物に生命や意識が宿ることも完全に否定できるものではない。

 これだけ構造も物質系も複雑化した地球が、その内部に意識を持ったとしても、全て否定することはできないだろう。

 とは言え、地球が意識を持っているという説は、所詮人間が後付けで考えた話ばかりで、語る人間に都合のいい話になっていたから、本当に時子に地球の意識が憑依しているとしたら、実際のところが確認できる、非常に興味深い機会なのだ。


 とにかく、徳永チルドレンの渡米の準備は整った。早くしないと、また日本への攻撃が行われる可能性がある。

 敵の巨大ドローンは富士山の頂上に墜落したが、外部にはほとんど損傷がなく、お鉢に嵌まった感じになり、富士山の標高を50mほど高くすることになった。

 製造された国を特定するため、いくつかの部品をサンプルとして採取したが、まあ確認しなくても、あんなものを作るのはアメリカ以外あり得ないとは思っているが...


 この後、訓練のデブリーフィングと渡米の計画が話されることになっている。


【茉莉】

 最終訓練はさすがにちょっと疲れたけど、ピンチが来る度、ワクワクしっぱなしで、どんどん力が湧いてくる感じがした。

 この後、あの巨大ドローンを送り込んだお父さんと戦うことになりそうだけど、実は楽しみになってる。

 強い敵と早く戦ってみたい!

 今日は午前中から最終訓練の振り返りをすることになっているけど、特に反省点とか見当たらないのよね。

 そう言えば、師匠(楢原一尉)を見掛けないけど、どこに行ってるのかしら...


 こうして、兄弟全員と時子、練、そして見たことのないおじさんが会議室に集合して、最終訓練のデブリーフィングとやらが始まった。


 まずは最終訓練を映像で振り返るということで、私たちの行動と、自衛隊側AIによる捕捉状況、作戦行動が並列に表示された。

 最初に捕捉されたのは、予想通り武蔵がドローンに乗って索敵をした時で、3つのカメラで捕捉され、再度光学迷彩を纏ってからの行動がほとんど正確に読まれていた。

 道理でミサイルや榴弾が正確に飛んでくる訳だわ。

 その後も光学迷彩を外した時、瑞希兄がドローンでVXガスを拡散したときにカメラで捕捉されている。

 やはり弱点は光学迷彩を解いた時なのね。

 でも、練は超音波によるエコーロケーションで位置を特定できてたから、その対策も必要になる。

 当然考えてくれてるとは思うけど。


 練からは、最終訓練の中で、更に皆の能力が向上したことを告げられた。

 そう言えば、私もスピードが更に上がった気がするし、途中時間が遅く感じられたことがあった。

 ピンチになると脳の活性度が極端に上がって、周りが遅く感じられるという仕組みらしい。

 マンガの主人公みたい!


 とは言え、榴弾やVXガスって、まともに食らったら死んでもおかしくないと思わないのかしら。

 と思ってたら、練が説明し出した。

「最終訓練では、自衛隊が出せるあらゆる攻撃を出そうと決めていました。なぜなら、敵も同じかそれ以上の攻撃をしてくるはずだからです。ここでなら皆さんがケガをしても治療できますが、敵地ではできません。光線兵器や細菌兵器など、あらゆる想定に対応できる必要があります」

 確かにおかげで注意深くなったし、視野も拡がった気がするわ。


 デブリーフィングの最後に時子に関する話が始まり、例の知らないおじさんが話し始めた。

「皆さん、初めまして。私は清水坂孝と言います。練の父であり、君たちのお父さんである徳永秀康とずっと仕事をしてきた者です」

 練のお父さん...

 そう言えばどことなく似てる気がする。

「私は時子がアンドロイドに搭載されてから、ずっと一緒に暮らしてきました。ここまで人間に近い思考ができるアンドロイドは他にいないと思っていましたが、どうもそうではなかったようです」

 ん?何の話?時子ってアンドロイドじゃなかったの?

 でも人間らしくもない気がするけど。

「時子、本当のことを話して欲しい」

 すると、時子が前に出て来て話を始めた。

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