第48話

【瑞希】

 と同時に武蔵の視界が頭に入ってきた。

 光学迷彩を纏ってるけど、何あれ?大きさがおかしいぞ。

 富士山の頂上、お鉢の半分くらいの大きさだけど、直径300m位あるんじゃ?


「訓練中止!未確認の重巡戦闘ドローン探知!」

 あれがドローン?

 なんで富士山の上にいるんだ?

「航空自衛隊の迎撃ドローンを上げます!訓練中の陸上自衛隊は戦闘待機!」


「龍脈を狙っておるのか」

 ん?時子さんがただならぬ声色でしゃべってる。

 龍脈って何?

「あやつ、儂に孔を開けようとしておる。このままだと、日本中でマグマが噴き出すぞ」

 わし?

 時子さん、どうしちゃったの?!

「日本を沈めたくなかったら、あやつを倒すしかないぞ」


 よく分からないけど、あのドローンを止めないと日本がピンチってことだけは分かった。

「静!あのドローンを落とす手はないのか?! 」

 武蔵が静に呼び掛けた。

「あぁ、あれねぇ。あれ、俺っち②が作ったやつだから、弱点と言える弱点はないんだよね」

 何と!徳永秀康氏が作った巨大戦闘ドローンてこと?

「強いて言えば、至近距離でアトミック茉莉を繰り出せばちょっとは効く、かもしれない、かな、かも」

 自信なさそー!


 アトミック茉莉って、茉莉のハイパーダイヤモンド刀での滅多切りでしょ?

 あんなに大きい相手に効くのか?

 そうこうしていると、遠くの方から航空自衛隊の迎撃ドローンの飛行音が聞こえてきた、と同時にそのドローンが燃え上がり墜落していくのが見えた。

 何だ!?

 どんな攻撃をされたのかも全然分からないまま墜とされてる!

 こんなんじゃ近づくこともムリなんじゃ...


『王、私めにいい考えがございます』

 頭の中から声が聞こえる。

 王?って、いつも夢に出てくるソマチットか?

「考えって?」

『以前も申し上げましたが、我々はダークエネルギーに干渉することができます』

 ん?そんなこと言ってたっけ?


『生涯を掛けて少しずつエネルギーを吸収していますが、死ぬ間際に残りのダークエネルギーを全て使うことができるのです』

 うんうん、それで?

『このエネルギーを使って、空間の重複を引き起こすことができます』

 空間の重複...


『即ち、物質の強制的な融合であります』

 て言うか、君たち何でそういう知識があるの?

『融合する物質の質量にも寄りますが、1μgもあればあの富士山を吹き飛ばしてみせます』

 いやいや、富士山吹き飛ばしたらまずいでしょ...

『王が望むのであれば、一人の犠牲で日本を救うことができると思いますが』

 犠牲?


「それは、ソマチットが一人死んでしまうということなの?」

『左様にございます』

「それはダメでしょ。誰かの犠牲で掴める幸せなんて本当の幸せではないよ」

『王!勿体なきお言葉!もう思い残すことはございません!』

「いやいや、え?そんなに?」

『我々は全ての個体が共通の意識にリンクしております。それ故一人が死んだとて、何の影響もございません。王のために死ねるのであればむしろ本望にございます!』

「そうなのかぁ。でも死んじゃうってのはなぁ」

『むしろ、この場面でお役に立てないことの方が辛いのです』

「...分かった。じゃよろしく頼むよ」

『ありがたき幸せ!』

「で、どうやって君らを敵のドローンのところまで運べばいいの?」

『...』

「そこはノープランなんだ?!」


 徳徳ドローンは多分途中で探知されて落とされるだろうし、地上から近づくのも危険だよな。

「君ら、熱にも強いんだよね?」

『左様。400℃程までは耐えられます』

「なら行けるかな。武蔵ちょっと」

「瑞希兄、こんな時に何ブツブツ言ってるんだ?」

「ここからあのドローン、狙撃できる?」

「距離は遠いが、的が大きいから当てるのは訳ない。ただ、M107の威力じゃかすり傷しか付けられないぞ」

「近くまで届けばいいんだ。皆聞いてくれる?」


 皆にソマチットから聞いた、ソマチット一人の犠牲でこのピンチを乗り越えられることを説明した。

「瑞希、ちょっとタンマ!」

 静が待ったを掛けてきた。

「そんなことしたら、富士山に棲んでる生き物たちはただじゃ済まないよ」

 あ、確かに核爆発クラスの破壊力だろうから、みんな死んじゃうかも。

「そういう時はドローンの中心で爆発させれば外まで被害が出ないんじゃない?」

「え、そんなことどうやって?」

「ねぇ、瑞希の中のソマッちゃんさあ、空間の重複って、時間差でできる?」


 ソマチット、聞こえてるかな?

『聞こえております、王。伝えていただけますでしょうか?できますと』

「できるって」

「じゃあ、武蔵の撃った弾の周りを切り取りながら、ドローンの中心に行った瞬間に重複ってできる」

『理論的にはできますが、なかなかの難易度かと』

「できるけど、難しいって」

「できなくはないのね。じゃあやろー。武蔵は弾頭がドローンの中心を通るように狙って」


 すぐに武蔵が弾道を読み始める。

「いいぞ、誤差2mで着弾予定」

 M107の12.7mm弾の弾頭に少し傷を付け、その傷の中にソマチットを入れる。と言っても目に見えるわけではないから、「よろしく」と告げて弾をマガジンに入れ直した。

「武蔵、反撃があるかもしれないから、撃ったらすぐに待避ね」

「了解」

 6kmほどの距離と2,000mほどの高低差があるため、銃口をかなり上に向けている。


「いつでもいいぞ」

 武蔵から狙撃準備が整ったことが告げられる。

「それじゃ、カウントダウン、5,4,3,2,1、発射!」

 ドン!

 ひときわ大きな発射音と発砲煙の中、直ちに反撃を避けるために各自待避する。

 約10秒後には着弾するはず。

 後はソマチットがうまくドローンの装甲を削りながら中心部に到達して、空間の重複とやらをタイミングよく、かつちょうどいい量で行ってくれれば、被害も少なくて済むはずだけど...

 もうすぐ10秒経つ。ソマチット、頼む!

 その瞬間、富士山の方からレーザー光線のような光の筋が空に向かって伸びた。

 その後、ドローンの姿が現れ、そのまま富士山のお鉢の中に沈んで行くように見えた。

 うまく行ったのかな?


【Emma】(米国コロラド州シャイアン・マウンテン空軍基地)

 ガピ!

 あら、日本に送り込んだドローンからの信号が途絶えちゃったわ。

「Ethan!父のドローンやられちゃったみたいよ!」

「うそだろ。父、絶対墜ちないって言ってたじゃん!」

「父のドローンも大したことなかったって訳ね」

「所詮父も完璧ではなかったってことだね」

 でも、日本を沈めるのは私たちの仕事だったから、別の方法で沈めなくてはいけないわ。めんどくさいわね。


 父の作った色々な機械や、常温核融合炉の停止コード、光学迷彩ドローンによる燃料設備の破壊で、世界中を氷河期化したはずが、何故か日本だけ氷河期化を免れて「のほほん」と生き延びている。

 しょうがないから、私たちで日本沈没プランを立ち上げて、父に超巨大ボーリングドローンを作ってもらったのに、墜とされちゃったらしい。

 日本は火山列島だから、マグマ溜まりをうまく刺激するだけで日本全体を沈めることができるはずだったのに。

 核兵器でも使われたのかしら?

 でも日本は核兵器は持ってないはずだし。

 私たち兄弟の邪魔をする奴はゆるさないわ。

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