第47話

 そのまま進み、静が潜んでいそうなポイントに近付いて行くと、人の思考が聞こえてきた。

 5人かな。


「この先に人がいる。でも静じゃないわ」

「正確な人数、距離は分かりますか?」

 と時子から確認が入る。

「多分5人、距離は50m位かしら」

「了解です。ではここは飛ばして次の地点に向かいましょう」

 見切りが早いわね。

 私の能力、そんなに信憑性が高いのかしら。

 とその時、

「5時の方向、超音波を探知、武蔵さん視認お願いします」

 時子が早口で指示を出す。

 武蔵がその方向を見ると、光学迷彩を纏った何者かが迫って来る映像が見えた。

「茉莉、お願い!多分人だわ!」

 さっきと同じように武蔵の視界をみんなに送る。


「オケ!」

 茉莉が迫ってくる相手に向かうと、その相手は立ち止まり、光学迷彩を解いた。

「皆さん、流石です」

 現れたのは鍊だった。

 鍊は超音波を使って物体の位置を割り出すエコーロケーションという技術で、光学迷彩を纏った我々を認識していたらしい。

 そんな技術で光学迷彩が破られるんなら教えておいてよ。

 時子が超音波を聞けたから気づけたけど、もう一人くらい超音波を聞けないと危ないかも。


 鍊に別れを告げ、静の居そうな次の地点に向かった。

 次の地点まで15km程、もうすぐ日が暮れるから、どこかで食事と宿泊が必要ね。

 5km程進んだ所で宿泊の準備をすることにした。

 辺りは真っ暗になっていたけど、外骨格のカメラが高感度らしくて、AICGlassesを通して昼間のように見える。


 食料はドローンに積んである人工光合成ユニットが少しずつ精製してくれていて、水も空気中の水分を吸収して溜めてくれるから、自分たちで持って来てはいない。

 でも、あまり美味しくはないのよね...


 眠らなくてもいい時子に見張りを任せてみんな眠ることにした、けど、樹海の中は平らなところがなくて身体が痛かった。

 すると瑞希が、

「外骨格を硬化モードで固定すれば、痛くないよ」

 と教えてくれた。

 なるほど、これなら痛くないわ。

 それに、自動的に温度調節もするみたいで、暑くも寒くもなく、ぐっすり眠れそう。

 でも、もしかして作戦中はずっとお風呂に入れないのかしら。


【最終訓練2日目 6:00 茉莉】

 あー、よく寝た!

 樹海の朝って、気持ちがいいわ。

 最終訓練はどうなるかと思ったけど、私の活躍で何とかなりそうじゃない?

 ミサイルが飛んできた時も、榴弾が炸裂した時も、二足歩行兵器が迫ってきた時も、集中すると周りがスローモーションのように見えて、ちょっとドキドキしたけど、ワクワクもして。

 これも特殊能力の一つなのかな。


 果歩姉から武蔵の視覚が送られてくるのも、最初はモヤモヤした感じだったけど、段々ハッキリ見えるようになって、改めて武蔵の眼のスゴさが分かった。

 こんなにハッキリ物が見えるなんて...


 今日は静ちゃんの居そうなもう一つの場所を目指して、あと10kmほど進むことになってる。

 瑞希兄だけ、何か思い詰めた顔をしてるけど、大丈夫かしら。


「瑞希兄、何か調子悪いの?」

「いや、えーと、僕だけ何も役に立ててないなーと思って」

「何だ、そんなこと?」

「だって、みんなスゴい活躍してるのに」

「瑞希兄はいざという時にみんなを助けてくれればいいんだって。だから出番がない方がいいの」

「でもなー」

「いいから、早く朝ごはん食べて」

 確かに出番がないのは嫌かもな、でも瑞希兄、戦闘力ほとんどないから...


 朝食が済むと、早速樹海を昨日と同じように進んで行く。

 朝の木漏れ陽がとてもキレイだ。

 私は敵を見つける力はないから、時子と武蔵に任せてのんびりしてられる。

 檜原の森も深いけど、青木ヶ原は別格ね。植生が豊かだし、ほとんどの樹が苔むしてる。

 お仕事が終わったらまた自転車で来てみたいな。


 ハイパーダイヤモンドでできてる刀に朝日の光を当てると、虹色に輝いた。形は日本刀に似ていて、全てがダイヤモンドという訳ではなくて、芯の部分には金属が入っていた。

 恐らくダイヤモンドは硬いけど、衝撃にはそれほど強くないので、粘りのある金属を芯材にしてるって果歩姉が言ってた。

 果歩姉、なにげに色々知ってるのよね。


 また1時間半ほど進んだところで警戒体制に入った。

 今度はドローンをずっと先まで飛ばして索敵を行うことにするらしい。

 すると、人の痕跡が5km先に確認された。

 昨日は武蔵の眼を使った途端に探知されたので、今度はギリギリまで使わずに進むことにした。

 すると、時子が

「微量の神経ガスを検出。ガスマスクを装着してください」

 と言い出した。

 訓練なのに毒ガス使うの?


 静ちゃんからもらった外骨格は、ガスマスク機能も内蔵していて、常温核融合炉の電力で、ほとんどの毒素を分解できるらしいけど。

「ガスの成分はO-エチル-S-メチルホスホノチオラート、通称VXガスです。このガスは身体に触れても影響が出ます」

 えー!?

 ガスマスクだけではダメってこと?

 どうすればいいのよー!

「ドローンの超電導タービンでガスを拡散してみる!」

 瑞希兄が何か思いついたみたい。


 ゲームのコントローラみたいなものを取り出して、何やら操作し出すとすぐにスゴい風が上から吹き始めた。

 見えないけど、すぐ上にドローンが来て風を起こしているのね。

「ガス濃度が減少します」

 助かった、かな?

 でも周りの樹々が揺れているから、敵に見つかっちゃうんじゃないかなー。


「榴弾砲の発射音探知。全員私に付いてきてください。瑞希さんはドローンを私の頭上でキープお願いします」

 案の定攻撃されてる。

 すぐに時子が走りだし、みんな後から追いかけ始めた。

 ドドドドン!

 後ろで榴弾が炸裂する。

 そう言えば時子ってアンドロイドのはずだけど、何で私たちに指示できるのかな。

 普通、アンドロイドって人間の命令を聞くだけだと思うけど。

 樹海の起伏を走れるだけでも、今のアンドロイドの中では常軌を逸した性能よね。

 前に静が「君は誰なのかな?」って言ってたけど、中身は人間だったりして...


 そうこうしていると、小さな丘の上に出た。

 富士山が近くに見えている。

 私、こんなに近くで富士山見るの初めてかも。


「富士山の上に何かいる!」

 武蔵が叫んだ。

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