第44話

【瑞希】

「皆さんの訓練も最終段階となりました。今日はこれから最終訓練を実施します」

 朝食後に鍊が告げる。

 やっぱり。そろそろ仕上がって来てると思ってたんだ。


「最終訓練は青木ヶ原樹海内で静さんを見つけるというものです。面積は20km四方、静さんには、どこかに潜んでもらいます。居場所のヒントはありません。皆さんの力を合わせて3日以内に見つけ出してください。ちなみに陸上自衛隊一個連隊が皆さんを排除するため作戦行動を行います」

 どこかにってことは、静の探索も含めて訓練ということだな。


「俺っちから最後のプレゼント。光学迷彩付きの外骨格。カーボンナノチューブを編んで作ってある。普段は柔らかいけど、衝撃を受けると瞬時に硬化するから、小銃弾くらいは防げるよ」

 この外骨格とやら、見た目は真っ黒で、忍者装束みたいだ。 背中側がちょっと膨らんでいて、ここに小型の常温核融合炉と光学迷彩装置が入っているらしい。

「皆さんの特殊能力を駆使して、作戦を完遂させてください」

 鍊は敵側に付くようだ。

「俺っちも全力で隠れるんで、ガンバって見つけてね」


 その後、静は陸自の隊員と一緒にどこかに出発し、2時間後、最終訓練が開始された。

 ブリーフィングの仕切りは時子さんだ。

 メンバーの役割を再確認しておくと、ドローンによる索敵と攻撃を時子さんと僕で、視覚による索敵と長距離射撃を武蔵が、防御および近距離での格闘を茉莉と武蔵が、メンバーの情報共有を果歩が担う。

 武装は38式小銃とSFP9、茉莉はハイパーダイヤモンドの刀を背中に背負い、武蔵はM107アンチマテリアルライフルをドローンに積んだ。さすがにかなり重いので、ずっと持っているのは厳しいのだ。

 38式はカーボンナノチューブの外骨格の前部に固定できるようになっているから、ずっと持っている必要はない。


 まずは静の居場所を突き止めなければならないが。

「まずは私が光学迷彩ドローンを飛ばして、訓練地域全域の状況を撮影します。可視光、近赤外線、サーモスキャンで撮影しますので、人の痕跡を辿ることができます。その後、静さんの潜んでいる可能性が高い場所まで皆で移動します」

 時子さん、めっちゃ仕切ってる。素敵だなぁ。


「移動時もドローンを斥候として飛ばし、武蔵さんの視力で索敵を行いながら進みます。自衛隊も光学迷彩兵器を使って来ると思いますので、例の目薬を使って見つけ、見つけ次第長距離から攻撃します。ちなみに目薬は私が点して差し上げます」

 武蔵は自分で目薬点せないのか。そこは勝ったな。


 そういえば、全ての武器は実弾が装填されているけど、自衛隊員を攻撃しても大丈夫なのかな?

「静さんに近づいてきたら、果歩さんの思念波の能力で探知ができると思われます」

 そっか、果歩は静の思念波を知ってるから近づけば分かるんだ。

「自衛隊の攻撃は基本的には避ける形で対処してください。避けるのが困難な場合は茉莉さんの剣で対象物を破壊してください」


 うんうん、それで僕の役目は?

「瑞希さんは私が困ったら助けてください」

 おミソ?

 だって、時子さん、ペタFLOPSクラスの処理能力があるって噂だから、僕らのことなんてほとんど止まってるように見えてるはずで、困ることなんてないはずだし。


「では1200(ひとふたまるまる)状況開始です」


【最終訓練1日目 12:00 武蔵】

 早速、時子の操縦で光学迷彩ドローンをコンシールモードで高度300mを飛行させながら、訓練区域をくまなく撮影する。

 ちなみに超電導タービンエンジンは結構駆動音が大きいのだが、駆動音と逆位相の音を発生させることで、ほとんど無音で飛行できるため、見つかることはまずない。

 300m上空で、撮影時だけ小さなカメラが一瞬現れるだけだから、俺でさえ予め飛んでいる位置が分からないと見つけられないくらいだ。


 30分掛けて撮影した訓練区域の写真を、時子が分析した形で地図の上に重ねて、AICGlassesに表示させる。

 すると、三ヶ所に陸上自衛隊の部隊が配備されているのが分かった。

 部隊規模はそれぞれ20名程度の小隊レベルで、恐らく静はそのいずれかと一緒に行動している。

 敵は各部隊が光学迷彩の機動兵器を運用している。

 近くにいる部隊から確認していくこととし、俺が先頭となって樹海内に潜入していく。


 樹海の中は結構起伏があり、数十m先までしか見通せない。

 比較的歩きやすい踏み跡を辿りながら進んでいく。

 ちなみに踏み跡とは、けものみちのように人や動物の通り道だが、けものみちよりも遥かに見えにくいもので、樹海中に張り巡らされている。


 しかし、姉ちゃんも兄ちゃんも普通に付いて来るな。訓練の最初の頃とは別人のようだ。

 1時間半ほど進んで、目的地まで5kmほどの地点で時子が指示を出す。


「目的地まで5kmとなりました。交戦可能区域に近づきましたので、皆さん光学迷彩を纏ってください。武蔵さんはこちらへ」

 AICGlassesのイヤホンから時子の声が聞こえる。

 例の目薬を点す気だな。

「目をしっかり開いてください」

 ポタッ。

 ふお、これはやはりスゴいな。

 視界の解像度が一段上がった感じがする。


 光学迷彩を纏うと肉眼では外が見えなくなるので、小さなカメラを迷彩の外に出してAICGlassesに表示される景色を見ながら行動することになる。

 カメラはかなり小さいのでほとんど見つかることはないと思うが、肉眼に比べると格段に解像度や情報が少なくなる。

 なので、いざという時は目の部分の光学迷彩を解除して肉眼で見ることになるが、その時は敵に見つかる可能性も高くなる。


「では、武蔵さんはドローンで上空に上がっていただき索敵をお願いします」

 あのドローンって乗れるんだったのか...


 索敵のために先を飛んでいたドローンを戻して、下部に外骨格ごと接続する。

「では高度300mまで上げて360度回転させますので、索敵をお願いします。武蔵さんの視覚はこちらである程度モニタしてますので、光学迷彩を発見したら知らせてください。こちらのマップにプロットしていきます。一応M107を装備してください」


 ドローンは見えないまま瞬時に300mまで上昇し、水平方向に回転を始めた。

 索敵のため、頭部の光学迷彩を外すと、1km先に自衛隊の光学迷彩を纏った兵器を発見した。

「時子、1時の方向、光学迷彩を探知」

 と告げるや否や、その光学迷彩の場所からミサイルが発射された。


 SAMか!

 慌てず、M107の照準をミサイルに合わせてトリガーを絞る。

 ドン!

 大きな衝撃と共に12.7mm弾がミサイルに向かう。

 すると、ミサイルがこちらの射撃を避けるように、軌道を変えた。

 何!

「時子!ドローン、急降下!」

「コピー」

 目の部分の光学迷彩を復活させ、自由落下よりも速いスピードで地表スレスレまで降下するが、ミサイルはこちらが見えているかのように向かってきた。

 見えてるのか?!

「茉莉姉!ミサイル破壊!頼む!」

「合点承知!」

 茉莉は刀を抜いてものすごい速さで樹を駆け登り、ジャンプしてミサイルを切り捨てた。

 ミサイルは真っ二つになって地上に落ちた。

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