粒あんの食べ方

 私の夫は、甘いものが好き。

 ケーキなんかは、側面に巻いてあるぺらぺらとしたビニールに付着した生クリームまでをも食べ切るタイプ。

 年を重ねた今も同じ。

 だが、数年前からは、甘い粒あんも好むようになった。

 だから、時折トースト用にコ〇ダの丸い容器に入った粒あんが、宅配のカタログに登場した際には注文していた。

 最近は、カタログを見落としていたのか注文できていなかった。私は、別段無くても困らないので放置していた。まあ美味しいとは思うんですけどね。

 そんなある日、近くのスーパーで北海道産小豆使用と記された四角いパック入りの粒あんを見つけた。

 何だかラッキーな気分。良い物を見つけたような。

 夕飯後にその粒あんを夫に自慢げに見せると、ほころぶ夫の顔。とても嬉しそうに言った。

 「食べよっか」

 「えっ、今なん。パン無いけど」と、うろたえる私。

 「いや、そのまんま」と、平然と言う夫。

 「な、なんて。そのまま食べるの。ダメ、ダメ」思わぬ言葉に思いっきり反対した。

 その言葉にしょんぼりと項垂れる還暦を過ぎたおじさんの姿が哀れに映った。

 「仕方ない。小皿に取ってそのまま食べる?」

 そのあと粒あんを食べる夫は、とても幸せそうだった。

 「うん、いいんだよ。生クリームをそのまま食べるよりもね。」と自分に言い聞かすように呟いた私。もちろん、私は粒あんを単体で食べることはしない。これまでにもそのまま食べた人を見たことも聞いたこともない。

 

何だか粒あんを食べる夫が、別の生物に見えた。

妖怪、小豆洗い、いいや垢嘗めかな~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る