妖怪化

 朝の起床は夫の方が少しだけ早い。

何故なら私が先に起きてしまうと夫は何もしなくなるから。

 だから、夫が階段を降りていく音を聞いた後に頃合いをみて心地よい布団から抜け出す。

 そうして、「おはよう」の挨拶を交わす頃には、既にケトルの湯は沸きテーブルの上も拭かれている。

 最近は私が仕事を辞めたので若干不規則にはなっているが、ほぼほぼ我が家のルーチン的なことだ。

 今朝もいつもと変わらぬ朝だった。

 夫の電動歯ブラシの音が響く洗面所でのこと。

 「おはよう」と斜め後ろから声を掛けた。

 顔を左右に振り私が目に入った瞬間に大きくのけ反るように跳ねた。

 「あ〜、びっくりした」と、夫が真顔で言った。

 夫は恐怖映画やそういったテレビ番組は全く見ないほどの怖がりだ。

 そういえば、数日前の朝も同じようなことがあった。いや、あの時は今朝以上だった。

 居間のドア付近で私が声をかけた瞬間に後ろへ飛び跳ね直後に私を一旦見てから、まるで天気予報の台風のように右旋回して逃げたのだから。

 の一言に尽きる。

 前に年齢を感じさせないご婦人を誰かが妖怪と呼んでいたのを知り、アラ還の私が目指すべきは妖怪などという内容の文章を綴ったことがある。

 あのご婦人の場合は美しい意味だったのだけれども。

 確かに最近はお肌のお手入れも殆どせず、服装などにも無頓着になっていた。

 あっ、いけない。

 目指すべき妖怪ではなくてが始まっていたんだ。

 少しは、自分磨きをしなくっちゃ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る